第1話「昭和生まれの彼女は16!?」

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第1話「昭和生まれの彼女は16!?」

 春爛漫のその日、愛野(あいの) ゆうまは泣いていた――。 「ではクラスの男女学級委員長は、それぞれ愛野(あいの) 悠馬(ゆうま)くんと風間(かざま) 甘美(あまみ)ちゃんに決定しました!」  先生の口から声高らかにその宣言が下るとすぐに、パチパチパチパチと拍手によって奏でられる祝福の音色が教室中に溢れた。  一方、ゆうまの目には涙が溢れている。  ――あぁ神様、神様はどうしてこのような試練を(わたくし)めに課したのでしょうか。理想は、何の役職にも縛られることなく『あつ森』のようなスローライフを送るつもりだったというのにっ!  よりによってクジで男子学級委員長に選ばれてしまうとは……。  そう心の中でつぶやくゆうま。  彼は、望まない男子学級委員の地位を1/21の確率で引き当てた運に見放された哀れな男であった。そもそもゆうま自身は、委員会の地位につく気など毛頭なく、しがらみに縛られず、悠々自適なスクールライフを目指していたのである。  しかし、先ほどのくじ引きの結果とそれに伴う宣告をもって彼の野望は(つい)え、負け犬へと成り下がったのであった。  その心を知らずして教室のクラスメート達は涙を流すゆうまの姿に「おぉ! ゆうま君が喜びのあまり嬉し泣きしている……!」と、一同勝手に勘違いしている。  そんな彼らを横目に見ながら「こんなことになるのならあらかじめ工作しておくか、先生を買収しておくべきだったか……、いや、今からでもまだ遅くはないか」と、ゆうまは、悪魔に魂を売る覚悟で買収計画の思案に暮れている。 「――っていつまでいじいじしてんのっ!」  ふいに、ぺしっ! と頭をひっぱたかれる!  そのツッコミは脳天を直撃し、脳内にグワングワンと響く。 「痛ってぇっー!」  それによって正気を取り戻すゆうま。 「ったく、何するんだよー!」  少しばかりムカッとし、ツッコまれた方向に顔を向けるとそこにはまばゆい笑顔を浮かべた1人の少女がいた。  彼女は風間(かざま) 甘美(あまみ)、女子学級委員長の方に就任した人物である。 「もうっ、ゆうまったらいい加減元気だしなよっ! これから同じ学級委員長なんだし、よろしく!」  彼女のフレンドリーで底抜けに明るく、透き通った声は、ゆうまの右耳から左耳へと突き抜ける。 「よ、よろしく……」という挨拶を発したものの、ゆうまは彼女の姿に目を見張った。  彼女は流れるように美しい栗色の髪をみかん色の小リボンでポニーテールにまとめ上げ、瞳をキラキラさせた、まさに元気ハツラツオロナミンCといった感じの美少女であった。  しかも爽やかな柑橘系の香りと共にその美しく潤った目でこちらを見つめてくる。  瞬間、暗いどん底の掃き溜めにいたゆうまの心は、キラキラキラと一気に照らされ、そのまま昇天していく。  あぁっ女神さまっ……! あなたはどうして女神様なの……?  思わずそう思ってしまった。そのくらいの衝撃的な可愛さである。  ……うん、なんだかんだいってもこんな可愛い子と同じ学級委員なら悪くないかも。  頬を赤らめ、手のひら返しで先程とは打って変わったことを考えてしまう。 「お、俺の名前は愛野(あいの) 悠馬(ゆうま)。こちらこそ」  そんなこんなでやっとの思いで緊張しつつ、自己紹介をしていたところ横から「あー、ちなみに2人とも。さっそくの仕事だが近いうちに歓迎会&クラス会があるだろ? それの事前の流れを放課後なんかの暇な時間を使ってでいいから打ち合わせしといてくれないか?」と、先生がオマケをつける。  こうしてその日の授業は終わった。 「ってなワケだけど、どーする?」  放課後、甘美は真っ先にゆうまに話しかける。 「どうするったって学級委員になったからにはやらないワケにはいかないよ」 「そーよねー。そこで提案なんだけどさ、わざわざ放課後にまで学校に残ってやりたくないし、あたし達どちらかの家で話し合わない?」  それは意外な提案だった。  確かにゆうま自身、入学してまだ3日早々で放課後にまで学校に残るのは中々ツラいものがあると思っていたし、その考えには大賛成であった。  しかし1つの懸念がある。 「いやぁ、それがさ、俺1人暮らしなもんでアパートについ最近引っ越してきたばかりだから、うちはちょっと……」  そう、実をいうとゆうまは、遠路はるばる県外から上京してこの私立渡良瀬学園高校(しりつわたらせがくえんこうこう)へ入学した身であった。そのため、まだアパートでは肩身の狭い思いをしており、体裁的に女の子を連れ込める余裕などないのである。 「そっか、それじゃお邪魔出来ないね……。ならさ、うちに来る? あたしの家でやろーよ」  これまた意外な提案であった。 「え? そんな急にいいの?」  思わずゆうまは聞き返す。 「もち! 全然OKだよ。学校よりか全然居心地もいいし」  な、なんというチャンス……! まさかまさか学校が始まって3日目で女の子の家に行けるなんてっ……!!  瞬間、ゆうまの周りの世界はまるで開き直ったかのごとく、その装いを変えてしまった。辺り一面そこら中にサクラの甘く、豊潤な香りが広がり、花びらが舞っている。  それはひとえにかつていかなる先人達もが探し求めた桃源郷と見紛うことなきといった具合であろう。  あぁ天使様、ありがとうございます! これは役得、意外に俺はラッキーなのかもしれない……!  そう内心熱き血潮が滾り、胸を踊らせ、喜び、感謝の祈りを天に捧げるゆうま。  しかしこの後自らの運命を大きくねじ曲げる出会いが待っていることをこの時のゆうまは、まだ知る由もなかった……。
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