僕と金魚

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 ──その日の夜。  僕は、夢を見た。透明度の高い海底のような、静かな場所に一人で立っている。水の中だけど息が出来るし、地に足が着くわけでもないのに普通に歩ける、変な場所だった。周りにはこれといって何もない。どこからか光が射し込んできているようで、水がキラキラと輝いているのが印象的だった。ここはどこだろう。  ひらり。  突然目の前に現れた、帯のような赤い尾鰭。広い広いこの不思議な空間を、縦横無尽に泳ぎ回っている。 「……デメ子?」  気付けば、僕はその名を口にしていた。 「デメ子!!」  僕は叫んだ。ひらりとなめらかな動きで向きを変えたデメ子は、つぶらな黒い瞳で僕を見る。デメ子は素早く僕の前まで泳いでくると、ニコリと笑顔を見せた。 「……ユウキ」  デメ子が、僕の名前を呼んだ。僕はハッと息を飲む。これは夢だ。だって、金魚が喋るわけない。 「驚かせてごめんね。ボクは君にもらった金魚。デメ子だよ」  デメ子は口をパクパクと動かす。それは、いつも水槽越しに見ていた仕草とすっかり同じだった。 「ボクはたぶんもうすぐ死んじゃうから。だからその前にユウキに言いたいことがあって呼んだんだ。こんな何もない所でごめんね」  衝撃的な発言に僕は何も言えなくなる。デメ子が死ぬ……? 呆然としてる間に、デメ子は話し出す。 「あの日、お祭りの露店でボクの合図に気付いてくれてありがとう。ボクをあの狭い場所から救ってくれてありがとう」 「僕は……何も」  僕は何もしてない。夏祭り会場で、あの薄っぺらいポイで金魚すくいをしただけだ。
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