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僕と金魚
ぱしゃり。
小さな水しぶきが上がる。夏祭りの出店の、真っ赤な金魚が跳ねた音だった。
今にも踊りだしたくなるような祭り囃子とたくさんの人が行き交うガヤガヤとしたこの空間で、不思議と耳に入ってきたその音。
僕は誘われるように屋台に近付いて行った。
青地の布に赤い字で「金魚すくい」と書かれた、どこにでもありそうな屋台。
法被を着た怖そうなおじさんの足元には、長方形のタライの中で所狭しと泳いでいる鮮やかな赤色をした大量の金魚。着物の帯を思わせる尾鰭をひらひらと靡かせているその姿は数匹ぐらいならキレイだと思うのかもしれない。けど、こんなに大量にいるとちょっと気持ち悪いっていうか、若干の恐怖を感じる。
僕は水面をじっと見つめた。こんな所に閉じ込められている金魚たちは、このまま誰にもすくわれなかったら一体どこに行くのだろうか。自由になりたいと、夢を持ったりしないのだろうか。小学生らしからぬ事を考えていると、店のおじさんに声を掛けられた。
「そこの少年、やってくかい?」
「え?」
「大丈夫! すくえなかったらサービスしてやっからさ! ほら!」
さすが商売上手と言うべきか、有無を言わせず赤い色のポイとプラスチック製のおわんを手渡される。僕は三百円を支払ってそれを受け取った。
先にやっていた隣の女の子は金魚をすくえなかったらしく、半ベソをかきながら破れたポイとにらめっこしていた。この店は気前がいいのか、おじさんがこの中から一匹すくって渡してくれるようだ。半ベソだった女の子はそれが分かった途端、図々しくも「デメキンがいい! デメキン! デメキン!」と大騒ぎだ。苦笑いのおじさんは赤いデメキンを透明なビニール袋に入れて女の子に渡す。どうやら、サービスしてくれるという話は本当らしい。
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