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芳野の挨拶がはじまったとき、卓上の電話が鳴った。慌てて席に戻ろうとする谷さんに「わたしが取るよ」と合図をして、電話に手を伸ばす。
「はい。川棚パッケージです」
挨拶の途中なので、いつもより声を低くして応答する。
電話の向こうは、やけに静かだ。
「谷香苗さんはご在籍でしょうか?」
わたしは、自分の耳を疑った。
谷さんの声に、そっくりだ。しかし、目の前には芳野の挨拶を聞いている谷さんがいる。
「谷香苗さんはご在籍でしょうか?」
電話の主が繰り返す。
震える声で、わたしは「はい。弊社に在籍しております……」と答えた。
電話の声は「そうですか。ありがとうございます」と満足そうに言って、電話は切れた。
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