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1.代表電話――2015年12月16日
「柳美紗都さんはご在籍でしょうか?」
――また、だ。
わたしは受話器を握りしめた。
次々に卓上の電話機が鳴り、隣の席の同僚の芳野が受話器を上げた。「ハイッ。川棚パッケージです!」と溌剌とした声で応答している。
我らが総務課は会社の代表電話の第一応答を担当しているため、デスクでは常に電話の着信音が鳴り響いているのだ。
「柳美紗都さんはご在籍でしょうか?」
耳に押し付けた受話器から、電話の主が質問を繰り返す声が聞こえる。制服の白いブラウスの内側をつーと冷や汗が流れた。年齢不詳な、上品な女性の声。大人びた同い年くらいの女性にも思えるし、若々しい声の年配の女性にも思える。
いつも同じだ。
この声も。
質問も。
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