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メイドとの要件を終え、ハロルドは椅子に座り紅茶を飲み始めた。
―――おそらくアレックスも徐々に記憶が戻り、いずれは人間の姿に戻るはずだ。
―――今頃、突然の事態に慌てふためいているだろうな。
「フッ」
楽しそうに鼻で笑う。
―――今更自分が人間側だと把握して、魔王の首を跳ねようとしてももう遅い。
―――薄くなりかけた魔法で、魔王に勝てるわけがないんだから。
「これで魔族側の完全勝利だ!」
そのようなことを考え待機していると、ふいに窓から音が聞こえた。
―――何だ、鳥か?
本来、あまり気にすることのないような音に今は過敏に反応した。 歩み寄り窓を開けると下から手が伸びてくる。 ギョッとした一瞬、その隙に手はがっしりと窓枠を掴んだ。
「ッ、アレックス・・・!」
魔王城にいるはずのアレックスが、何故かここにいる。 背には大きな荷物を背負い、魔法が解けた瞬時の判断ではないと分かった。
「へぇ、凄いな。 どうやって魔王城を抜け出してきたんだい?」
「俺は10年もの間、魔族の地にいて、何度も魔王城へと足を踏み入れた。 魔王城の秘密ルートくらい、把握しているに決まっているだろ」
「なるほどな。 でも俺の場所をピンポイントで当てるなんて、大したものだ」
「魔法を使ってお前の居場所を突き止めたからな。 簡単なことだったさ」
アレックスが魔法を十分に使いこなしていると知り、ニヤリと笑う。
「それでハロルド。 今更ここへ来てどうしたって言うんだ? ・・・いや、アレックスって言った方が正しいかな」
「ッ・・・」
「10年前から“お前は人間側”だと魔族の連中にはバレていたんだ。 味方がいないと気付いて、怖気付いてノコノコと戻ってきたのか?」
「・・・酷いじゃないか、ハロルド。 俺のことを裏切って。 いや、人間を騙して!」
「俺のことを恨んでいるのか? まぁ仕方ない、いいよ。 俺と勝負でもするかい?」
「・・・」
「確かにいい勝負にはなるだろうね。 今俺たちの身体は、半分が人間で半分が魔族の状態だ。 俺には剣があるし、アレックスには習得した魔法がある。 面白くなりそうだ。
いや寧ろ、俺よりもこの10年で習得した魔法は多いだろうから、アレックスの方が少し有利かな?」
「・・・違う、俺はハロルドと戦いに来たわけじゃ」
「でも残念。 こっちには“魔法石”っていうものがあるの。 人が魔族に勝つための秘策を私が握っているわ」
「はぁ!? って・・・」
「だから、魔法が使えなくなったらもう私には勝てないわね?」
「・・・女、口調・・・?」
「まぁ、勝負は既に決着がついているのだけど」
「ッ!?」
喋っている途中からハロルドの言葉遣いは変化した。 もちろんアレックスが知っているハロルドにそんな趣味はない。 知らぬ10年の間に何かあった可能性もあるが、アレックスは違うと思っていた。
となると、答えは一つしかない。 アレックスはあることを察し、額から汗が一筋流れ落ちた。
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