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同時刻、謁見の間で王は代表戦の時間を静かに待ち続けていた。
「王様、メイドの者が代わりのお飲み物をお持ちしました」
「おぉ、入れ」
代表戦を行うのはアレックスであるが、人の命運がかかっているとあって王もかなり緊張している。 喉はカラカラと乾き、それは他に待つ人間も同じようだった。
「失礼します」
メイドは恭しく礼をすると王へと近付いていく。 一定の距離を保ち、飲み物が注がれたカップは毒見役が一口飲んだ後、王に差し出される。
問題があることもなく、その後も他に居合わせた面々に振舞われる――――はずだった。 王がコップを受け取りカップに口を付けた瞬間、メイドは到底メイドとは思えない速さで王の背後へと回った。
メイドは城でもよく知られていて、信頼されている。 だから、全員の反応が遅れたのだろう。 メイドは隠し持っていたナイフを取り出すと、王の首を後ろから掻き切った。
「ッ!」
声を出すことも許さず、赤い血を吹き上げ王は事切れた。 続いてメイドは片手を天井へと上げる。
「サンダーボルト!!」
虚空から現れた雷が空間に広がり、謁見の間に立つ全ての人間は地に臥した。 致命傷を与える程の威力はないが、身体の自由を奪う程度には効果がある。
「危なかったぁ・・・。 よかった、魔法が使えて」
王の身体を横たえると首を切断し、簡単に処理して頭を布に包んだ。
―――魔法石を置いてきたから、魔法石が本当に魔法を打ち消せるのか実践はできなかったわ。
―――でもまぁいいでしょう。
―――魔王城へ持って帰って、実際試してみればいい。
―――本当に使えたら、人間が反乱を起こすかもしれないからな。
徐々に言葉遣いが男のものへ戻っていく。 メイドと姿を交換していたハロルドは、ひと仕事を終え大きく伸びをした。
「あのメイドと容姿を入れ替えて、互いの記憶を俺のものにしたけど・・・。 そろそろ身体を返してもらわないとな」
そこでメイドの今の状態を想像してみた。
「ふッ、記憶だけは戻るようにしたから、今頃メイドは驚いてんのかな。 自分はなんて恰好をしているんだ、って」
王の首を包んだ布を大きな袋に詰めると、抱えてこの場を去ろうとした。
―――身体を返してもらった後は、魔王城へ戻るだけだな。
―――王の首もゲットしたし、予想通りの魔族側勝利。
―――呆気なかったぜ。
その時――――ドアから、アレックスが肩で息をしながら入ってきたのだ。
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