魔族の俺と、人の君

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アレックスの予想以上に早い登場に多少驚くも、既に事を終えたハロルドの笑顔は崩れない。  「おやおや、今頃登場かい? 遅いよアレックス。 見ろ、王の首だ」 そう言って抱えていた王の首を掲げた。 袋からは血が滲み、その凄惨さを物語っている。 それを見たアレックスは苦々しい表情を浮かべた。 ハロルドは満足気に笑うと、大時計へ目をやる。 「今は丁度2時だ。 俺は2時に、魔法が解けるようにしていた。 よって、俺たちの容姿と記憶は完全に元通り。 あとは何が言いたいのか分かるだろう?」 「・・・」 「剣と魔法の勝負なんて、魔法が勝つに決まっている。 お前の負けだよ、アレックス。 俺に勝つことはできない」 「・・・違う、俺は」 「あ、もしかして魔法石でも持ってきた? その手は考えていなかったなぁ。 まぁ魔法が使えなかったとしても、俺には12年間鍛え続けてきた剣がある。 剣術でも俺が勝ってしまうよ」 アレックスは否定するよう首を振る。 「いいや。 俺は魔法石を持ってきていない」 「はぁ? じゃあ、ここへ何をしに来たって言うんだ。 俺を止めに来たんじゃないのか?」 「あぁ、止めに来た。 ハロルドは、こんな世界でいいと本当に思っているのか?」 「・・・どういう意味だ?」 「人間と魔族が分かり合えない世界のことだよ」 アレックスがゆっくりと足を進めてくる。  「・・・俺は嫌だよ、こんな世界。 俺はまた、ハロルドと一緒に遊びたい。 たくさん冒険もしたいし、一緒に稽古もしたい。 ハロルドは違うのか?」 「・・・同じ人間、または同じ魔族だったら、そう願っていたかもな」 確かに二人で一緒にいて楽しかった記憶は残っている。 記憶は入れ替わってもそれは変わりはしない。 「いいや、人間と魔族でもその関係は築ける」 アレックスはハロルドの目の前で止まった。 「無理に決まってんだろ。 この世界は、人間と魔族で完全に分かれているんだ」 「その考え、決まりを俺たちが変えてしまえばいい。 勇者である俺たちが手を取って協力し合えば、絶対にこの決まりを変えられる」 「・・・でも、俺はもう王の首を取っちまったんだ。 人間は俺を恨むだろうし、変える資格なんて俺にはない」 「大丈夫さ。 寧ろ、王の首を跳ねた方が都合がいい。 この国のトップがいなくなるんだ。 そうしたら、俺たちがこの国のトップになれば決まりは簡単に変えられる」 「・・・」 ハロルドは魔王に言われてここへきた。 代表に選ばれたのも、人と同じように神託で選ばれている。 自分から進んでこの立場に立っているわけではない。  ただ人と魔族は、相いれないものと思い込んでいた。 「俺が人間でアレックスが魔族でも、昔はあんなに楽しく一緒に生活ができていたじゃないか! だから、人間と魔族が一緒に生活をしたとしても悪いことなんて起きないんだよ」 そう言ってアレックスは手を差し出した。 「一緒にこの世界を変えよう。 今ならまだ間に合う。 いや、王の首を取った今がチャンスだ。 ・・・俺はまた、ハロルドと一緒に過ごしたい」 ハロルドも本当は、このようなことをしたくはなかったのだ。 ただそれしか道はないと思っていた。 アレックスがいつからこんな考えを持っていたのかは分からないが、一朝一夕での考えではないだろう。 「・・・分かったよ」 ハロルドは差し出されたアレックスの手を握った。 現在、人と魔族の最高戦力はこの二人だ。 二人で手を合わせれば、アレックスの言う世界を作り上げることができるのかもしれない。 「・・・え」 だがハロルドは強く引っ張られ、その勢いのままアレックスが隠し持っていたナイフに胸を突き刺された。 身体中の力が抜け、正直何が起こったのかよく分からない。 「はッ・・・!? どう、して・・・」 「・・・ハロルド、ごめんな。 この物語の本当の悪役は、俺だったのかもしれない」 ハロルドが王にしたのと同様に、アレックスはハロルドの喉を切り裂いた。 アレックスの言葉はもう事切れたハロルドの耳に入ることはなかった。  アレックスはハロルドの首を切り落とし、背負っていたバッグを開ける。 中には魔王の首が入っていた。 「・・・本当にごめん、ハロルド。 ハロルドがまた裏切る可能性があったから、こうするしかなかったんだ」 アレックスはバッグを背負った。 残念ながら王の首も討ち取られてしまったが、代表であるハロルドと魔王の首は取った。 「安心してよ、ハロルド。 ハロルドと俺が一緒に住めるような共存する世界を、絶対に作ってみせるから。 そしたらもう、ずっと一緒だよ」 そう言ってアレックスはこの城を後にした。 その後、アレックスの姿を見た者はいなかった――――                                                                       -END-
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