懇願

5/6
前へ
/6ページ
次へ
 気が付くと、私は真っ白な部屋にいた。その部屋にあるベッドに横たわっていたのだ。 「ここは……」  私がそう呟くと、白衣を着た男が顔を覗き込んだ。 「ああ、気が付きましたか?」 「!」  私は身を固くした。見た目は地球人に似ているし、言葉も分かる。だが、ここは別の星なのだ。何をされるか分からない。  私は頭を動かし回りを見た。何かの機械が音を立てて動いている。その機械から繋がった管が、自分の口元に繋がっているようだ。しかも、点滴らしきものまでぶら下がっている。  もしかしたら、どこかで気を失っているを発見され、人体実験をされているのかもしれない。  私は逃げ出そうとした。だが、体がまったく動かない。力が入らないのだ。  私が無理矢理動こうとしているのに気付いたのだろう。男が、私の体を押さえた。 「ああ、駄目ですよ動いちゃ。あなたは、大怪我して運びこまれたんですから」  大怪我? ということは、ここはどこかの星の病院なのだろうか?  私の表情から見てとったのか、男は淡々と話し始めた。 「あなたは覚えていないかもしれませんが、この近くのビルで爆発がありましてね。あなたは、その事故の生存者なんですよ」  事故? どういうことだろう? 私がテレポーテーションで飛ばされて場所が、たまたま爆発してしまったということだろうか?  それとも、テレポーテーションしたことで爆発が起きてしまったのだろうか? 「ご家族に連絡しようにも、何も持っていなかったので困っていたんですよ。今、話せますか?」  男は馴れた手付きで管を外すと、改めて私に質問してきた。 「お名前は?」 「あ……、な、まえ、は……」  管を外されたからか、少し息が苦しい。もしかしたら、この星の酸素濃度が薄いのかもしれない。 「あの、それより……」 「何ですか?」 「ここは……何て星ですか?」 「は?」  質問の意味が分からないのだろうか? 男は、きょとんとしたまま私を見た。 「だから、この星の……名前を、聞いてるんです」  男は不思議そうな顔で私を見ていたが、ようやく質問の意味を理解したのだろう。困ったようにこう言った。 「地球……と言えば良いのかな?」 「えっ? 地球?」 「ええ。星というか、惑星という意味なら地球と答えるのが正解でしょうね」 「そう、ですか……」  私は混乱した。地球とはどういうことだろう? この星も地球という名前なのだろうか?  いや、そもそも火星とか冥王星とかいう名前を付けたのは地球人だ。もし、火星人や冥王星人がいたら、自分の住む星をそんな言い方はしないだろう。きっと、そういう意味の「地球」なのだ。      
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加