懇願

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「あの、お願いがあります」 「何ですか?」 「この星で、テレポーテーション装置を持っている人を探して欲しいんです」 「テレポーテーション?」 「私は、地球のテレポーテーション装置でこの星に来たんです」  男は訝しそうに私を見た。私が、別の星から来た人間だと分かったからだろう。  だが、男は「ちょっと待って下さい」と言って、部屋を出ていった。しばらくして、別の男を連れて戻ってきた。 「この人が、テレポーテーション装置を持っているんですか?」  私が尋ねると、二人の男は顔を見合わせた。 「どうやら、爆発のショックで混乱しているみたいですね」 「混乱? いえ、私は冷静です」 「でも、『別の星から来た』と言ったり、『テレポーテーション装置はあるか?』と聞いてみたり、冷静とは言えないでしょう」 「本当なんです! 地球のテレポーテーション装置に乗って、この星に来たんです!」 「ここは地球ですよ。そして、あなたは爆発事故に巻き込まれて病院に入院したんです」 「だから、それは!」  私は必死に訴えた。どうやら、頭がおかしな奴だと思われているようだ。 「私は、地球にある自動車の会社でテレポーテーション装置に乗せられたんです。そして、宇宙にあるこの星の座標を入力されて、それで……」 「その時の恐怖が、混乱を生んだのかもしれないですね」  男たちは哀れみの顔で私を見た。 「大丈夫ですよ。病院でゆっくり治療していきましょう」  男の一人が、注射器を手にした。 「そ、それは?」 「ただの鎮静剤です。気持ちが落ち着けば、そんな妄想もなくなりますよ」 「妄想? 違う! 私は本当に……!」  少しずつ体から力が抜けていく。私はもう助からないかもしれない。 「地球に、地球に帰してください……」  私は泣いた。もう、あの星には二度と帰れないだろう。家族も友人も、そして、昇進の話も無かったことになってしまったのだ。
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