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1・視界に映る人間
「男子寮ってさ、動物園と同じだってね。先輩が言っていた」
「あははっ、想像できる」
真新しい制服を着ているから、女子寮の新入生だろう。男子寮から出てきた俺に気がつくと、ハッとしたように黙ってしまったが、俺は「おはよう」と笑顔で声をかけて通りすぎた。
その通り、この緑林学園の男子寮は動物園も同然だ。けど、俺にはキミたちも動物にしか見えないんだけどね。レッサーパンダとオコジョか。まあ、可愛い方だな。
「今の先輩だよね? すっごい爽やかな人!」
「やだ、変なこと言っちゃったね」
背中からふたりの声がダダ漏れで聞こえてくる。
ハハッ、爽やかに見えるように日々努力してんだよ。キミたちが何を言っても、気にも留めねえから安心しろって。
心ではそんな悪態をつきながら、表の面はにこやかに爽やか男子を演じてみせる。
寮から通りを挟んで目の前にある緑林学園高校だって、俺にとっては動物園にしか思えない。始業式から数日経って、二年生のクラスのヤツらも少しずつ覚え始めている。
堂々とした態度で爽やかに話しかけているだけで、なんとなく周りにクラスメートが集まってくる。当たり障りがない冗談や軽い会話さえできれば、高校生活は問題がない。
ただ、いつも一緒に過ごすヤツはある程度は選ぶ。
「おっはよう、尚人!」
いつもあいさつ代わりに背中を思いっきりたたいてくるコイツは俺の目にはサルにしか見えない。目の大きなリスザルだ。
お調子者で小柄だからか落ち着きはないが、人懐こくてニコニコしていて害がないから安心だ。佐山茂明って名前だが、心の中ではサル山のシゲと呼んでいる。
「いってぇな、シゲ。その細っこい身体のどこにそんな力があるんだよ」
「ヘヘッ。小柄だからってバカにすんな!」
小柄の容姿を気にしているのだろうか。なんにしても、俺の目にはリスザルにしか見えないから、まあカワイイ奴だ。
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