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「おはよう、物理の宿題やってきたか?」
眠そうにのっそり現れたのは、牛男子。もとい、西村彬。だけど、俺には制服着た牛が直立して歩いているようにしか見えない。
「物理? 写させてくれんの?」
シゲがキラキラした目で彬の顔をのぞき込む。
「いや、俺が写させてほしい。昨日、やるの忘れちまった。尚人、見せてくれよ」
「いいけど、珍しいな。彬が宿題忘れるなんて」
鞄から物理のノートを出すと、彬は眠そうに欠伸をしながら「サンキュ」と受け取って、教壇前の自分の席へ行った。
「なんか、あったんか? 委員長の彬」
「いいなぁ、私も尚人君のノート借りたかったぁ」
「つうか、眠そうだよな、彬のヤツ」
名前はよく覚えてないが、クマにキツネにハイエナが俺の机の周りに集まってきた。適当に会話はするが、常につるむのは避けたい相手たち。そういう意味では、シゲも彬も一緒にいて警戒する必要がない気楽な相手なのだ。
おとなしいヤギ男子が教室に入って来たときに、何気なく廊下の方へ目を向けた。すると、サラサラストレートのロングヘアが見えた。
えっ? 長い髪……? 人間⁉
俺はその姿を見ようと、速攻で立ち上がって廊下に飛び出した。すると、隣のクラスに入って行くロングヘアの女子の姿が見えた。
ちらりと見えたツンとした横顔は、なかなかの美人に見えた。だけど、顔の造りなんてどうでもいい。俺にとっては、人間の容姿をした者を見るのは本当に久しぶりだったのだ。
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