14人が本棚に入れています
本棚に追加
01. 願い
魔導に捧げた人生だった。
たった一つの願いを叶えるために、労力と時間を惜しみなく注ぎ込んだ。
母が子を見捨て、老人はゴミのように野晒しにされ、もはや大義が失われて久しい戦乱の世。
こんな時代が許されてよいはずがない。
天よ、地よ。万物に宿る魔導の源よ。
弱き我が声が、その耳へ届かんことを。我が願いを聞き入れてくれたまえ。
『血にまみれた時代に、貴方は何を願うのです?』
幻聴なのか。死に瀕した自分が見た、甘い夢に過ぎないのか。
心の裡に響いた声に、私は歓喜した。
幻でもいい。我は乞う。
人智を超えたその力で、どうかこの戦火を止めてほしい。
『叶えられる願いは三つ。残りは?』
あと二つも願えるのか。これは予想だにしていなかった。
暫し頭を捻り、さらなる望みを考える。
二つ目はすぐに思いついた。
終戦後に訪れる平穏な日々を、私もこの目で見てみたい。
それが叶えば、この身が朽ち果てようと構うものか。
『では、あと一つ』
これは困ったことだ。
それ以上の希望は、うんうん唸ろうが出てきやしない。
あと一つ、何を願えばいいというのか――。
最初のコメントを投稿しよう!