01. 願い

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01. 願い

 魔導に捧げた人生だった。  たった一つの願いを叶えるために、労力と時間を惜しみなく注ぎ込んだ。  母が子を見捨て、老人はゴミのように野晒(のざら)しにされ、もはや大義が失われて久しい戦乱の世。  こんな時代が許されてよいはずがない。  天よ、地よ。万物に宿る魔導の源よ。  弱き我が声が、その耳へ届かんことを。我が願いを聞き入れてくれたまえ。  『血にまみれた時代に、貴方は何を願うのです?』  幻聴なのか。死に瀕した自分が見た、甘い夢に過ぎないのか。  心の(うち)に響いた声に、私は歓喜した。  幻でもいい。我は乞う。  人智を超えたその力で、どうかこの戦火を止めてほしい。  『叶えられる願いは三つ。残りは?』  あと二つも願えるのか。これは予想だにしていなかった。  (しば)し頭を捻り、さらなる望みを考える。  二つ目はすぐに思いついた。  終戦後に訪れる平穏な日々を、私もこの目で見てみたい。  それが叶えば、この身が朽ち果てようと構うものか。 『では、あと一つ』  これは困ったことだ。  それ以上の希望は、うんうん唸ろうが出てきやしない。  あと一つ、何を願えばいいというのか――。
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