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「離したくない……」
拓也が絞り出すように言った。
私は首を振る──「そんなに話したくないのなら、もう無理に答えなくていいから」という思いを込めて。
でもそれは誤解だった。
拓也の左手が、私の右手を包み込むように握る。
それで初めて、私の頭の中で〈話〉が〈離〉に変換し直された。
「こうなるのが怖かったのかもしれない……俺は、アメリカに戻らないわけにはいかないから」
〈むこう〉がアメリカを指すのだと気づくのに数秒かかった。
そうか、拓也は今アメリカの人間なんだ。
拓也のお父さんが言ったという「故郷で過ごさせてやりたい」の意味も、単身赴任でアメリカにいる父が一肌脱ごうとした理由も、今ようやくわかった。
拓也は今、生活の全て、人生の全てがアメリカにあるのだ。
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