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今だけは夢を見よう-3
時計の針が十二を打つ。
私は母が一階の寝室で眠りについたのを確認してから、拓也の部屋のドアをノックした。
返事はない。
でも中で人が動く気配がして、間もなくドアが開いた。
「……どうしたの?」
あの時とは違い、拓也は静かに訊く。
こんな時間に私がやってきたことにも驚いてはいないようだった。
「今夜が最後でしょ。話したいことがあるの──河上と」
あえて苗字で呼びかける。
きっとそれで伝わるだろう。私が何の話をしに来たのかが。
「……どうぞ」
拓也はそう言って、私が通れるように脇へと避けた。
お礼を言って部屋の中へと滑り込む。
部屋の中はきちんと片付けられていた。
もちろん、そんなことはどうだっていいのだけれど。
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