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なんだか不思議な感覚だった。
もし身近な人が記憶喪失になって、でも本人がそれに気づいていなかったら。
そんな時、もしかしたらこんな気持ちになるのかもしれない。
「う、うん。わかった。よろしく──陽菜さん」
陽菜さん──とってつけたように聞こえてしまうのは気のせいなのだろうか。
慣れない呼びかけにざわざわと胸が騒ぐ。
でもこれはときめきなんかじゃない。
むしろ不安をかき立てられるような感覚だ。
あの頃よりもぐっと低くなった彼の声で、自分の名前がそんなふうに発音されるのを聞くのは。
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