今だけは夢を見よう-1

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なんだか不思議な感覚だった。 もし身近な人が記憶喪失になって、でも本人がそれに気づいていなかったら。 そんな時、もしかしたらこんな気持ちになるのかもしれない。 「う、うん。わかった。よろしく──」 陽菜さん──とってつけたように聞こえてしまうのは気のせいなのだろうか。 慣れない呼びかけにざわざわと胸が騒ぐ。 でもこれはときめきなんかじゃない。 むしろ不安をかき立てられるような感覚だ。 あの頃よりもぐっと低くなった彼の声で、自分の名前がそんなふうに発音されるのを聞くのは。
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