『脱がし屋さん』

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「小説投稿サイトのランキングですかね。明らかに不正でランキング常連の人もいますね。高評価も自分で書いている人もいます。PVですか。これもズルしてますね。『物書きさん』、もっと見ますか?」 「もういい!」  僕は叫んだ自分に驚いた。僕は自分がもっと冷静で対応力があると思っていた。だから『タカリ屋さん』と対等に会話も出来た。そんな僕が叫ぶなんて。これは『絶対勝てる安全で最も卑怯な攻撃』だ。縄や強力なガムテープなんかで身動きが取れない状態で目隠しまでされ、集団から暴行を受けることと同じだ。相手の姿も見えない。声も分からない。ただ、痛みだけはこぶしだとか、ケリだとか、そんなレベルではない。鋭利な刃物だとか金属バットだとか。プロの格闘家ではなく非力な人間でも簡単に人が殺せるような道具で攻撃されるような痛み。『正義』は僕にある。確実に僕の悪口を書いたこの人たちは『悪』である。書き込みのバックボーンも分かる。僕に対する、僕の作品に対する評価に対しての妬みだろう。一からすべての真実を知っている裁判官が判決を出すようなものだ。 「自分だけは特別なのか?」 「うるさい!」 「人が人を裁く権利なんかないんじゃないのか?」 「うるさい!」 「『脱がし屋』が嫌いなんじゃないのか?」 「うるさい!」  僕の心はこんな感じだ。 「人が人を裁く権利なんかないんじゃないですか?」  『タカリ屋さん』の言葉に僕は思わず心の声を叫んでしまいそうになった。 「言葉で人が殺されるんです。これが現実です」  僕は想像力の欠如した平和ボケしたお花畑の理想家だ。 「僕が慰めてあげましょうか?スッキリすると思いますよ」  お菓子をボリボリ食べながらげっぷを繰り返す『タカリ屋さん』が言った。今の僕にはどんな慰めの言葉をかけたってスッキリするわけがない。こんな時、励ましの言葉や慰めの言葉がどれだけ無力で無意味で上辺だけなのかぐらい僕にだって想像出来る。そして。今の僕のような心をかろうじて慰めるというか、自分を納得させる方法は知っている。 『自分より下を見る』ことだ。  「この人に比べたら僕はまだそんなに酷くはない」とか、「それは酷すぎる。なんか可哀そうすぎて同情してしまう」とか、「悲惨すぎる」とか。  人は自分より『下』の人を見て自分を慰める。『下』を見て安心する。『上』を見て妬む。『中間』を嫌う。自分だけは特別な『オンリーワン』。それは当たり前の感情であり。誰だって自分の人生は自分が主役なのだから。『タカリ屋さん』は僕にどんな慰めの言葉を使うのか興味があった。 「じゃあ慰めてよ」  そして『タカリ屋さん』の言葉を聞いた僕は一瞬でどす黒い感情が吹き飛んだ。 「この書き込み、まえもって僕が用意したんです。犯人は僕です。すべて。ごめんなさい」  何故、そんな単純なことに気が付かなかったのだろう。何故、そんな単純なことでさっきまでのどす黒い心がスッキリしてしまうのだろう。これが『匿名』の怖さなのか。見えないものの怖さなのだ。 「と、言ったらスッキリしましたよね?」  え? 「冗談ですよ。本当にこの書き込みは僕が犯人です。それは真実です。僕は嘘をつきません」  僕は『物書きの端くれ』として『言葉』の『巧みさ』までリアルに体験した。世のすべての『匿名』での自分への悪意に満ちた誹謗中傷を見た人に「これを書いたのは僕だよ」と身近な人が言えば救われるのではないか?でもその考えはすぐに消去する。人それぞれ、立場や社会的地位や人との接し方、人間関係が違う。僕と『タカリ屋さん』の関係は特殊だ。 「僕が『物書きさん』の力が必要としたのはこういう目的が本当の理由なんです」  『タカリ屋さん』は何を言ってるんだ。
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