『脱がし屋さん』

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 今夜も作品が書けそうにない。ツイッターをついつい開いてしまう。『脱がし屋』アカウントは新しいツイートでいつも通りの『晒し』をしている。炎上し、『ネットリンチ』の被害にあった女性らしきアカウントへ酷い暴言を送ったらしき人で特に他にもいろいろと『匿名』の誹謗中傷をしている人を選んで『晒し』を行っている。僕は昨日までとは違う考え方でこのツイートを見ていた。今日、『タカリ屋さん』が仕掛けた上手な嘘である僕への匿名の誹謗中傷を実際に味わったからだ。言葉で人を殺せる。そして今、『脱がし屋』がしているツイート。これは僕の判断は必要ないということなのだろうか。それにしてもDMを開放しているからなのか。よくこんなに全国各地の悪意ある人間の顔入り画像を入手出来るもんだ。偽情報を送られたらどうするんだろう?だとか、情報のしっかりとしたソースはどうやって裏付けしているのだろう?だとか、人違いで無実の人を晒したらどうするんだろう?だとかいろいろ考える。でも、『タカリ屋さん』は知識も豊富で頭もいい。発想力もキレキレだ。そういうミスは犯さないのだろう。そして僅か三日間の付き合いで分かること。『タカリ屋さん』は心を捨てられないのだろう。『脱がし屋』がやっていることは信念がないとやれないことだ。信念を貫くことはとても精神力を消費する。例えばドラマとか映画とかで見る「殺し屋」は感情を持つとやってられない。ビジネスとして金を受け取り、依頼された人間を殺す。そこに感情が入るといい仕事は出来ないし、任務に差し支えると思う。僕が知る「殺し屋」は感情を持った時、もうあとは殺されるしかない。『タカリ屋さん』も同じようなものだと思う。確固たる信念を持って裁くべきターゲットの情報を揃え、『脱がし屋』の中の人であるお兄さんへそれを提供する。ツイートボタンを押すのがお兄さんの役割と言っていたが、情報を提供している時点でツイートボタンを押すことと同じ役割をしていると思う。もしかしたら『脱がし屋』の中の人である『タカリ屋さん』のお兄さんが提供された情報から却下する場合もあるのかもしれない。でも、『タカリ屋さん』一人では『脱がし屋』は存在出来ないようなことも言っていた。 「『癒し屋さん』かあ」  僕にそんな役割が果たせるのだろうか。『タカリ屋さん』は僕を過大評価していると思う。僕は『物書きの端くれ』だけど幼いし、背伸びをしても限界がある。この三日間、書くことをしてないけれど、小説を書いている時もペースは遅い。ネットで連載している小春名義の作品も不定期更新だし、原稿用紙五枚書くのに一週間ぐらいかかる。自分の中のマイルールで「一か月に二十枚書ければいい」と思っている。ネット小説の連載も小出しにすることで話数を稼いでいる。あと、それっぽいことを書き、一話完結の短編も多い。でも、僕と同じような人は小説投稿サイトにはたくさんいる。一話完結の短編は書きやすいし。文字数が百万文字を超え、話数も何百話とかの作品もよく見かけるけど「これを紙の本にするとものすごく分厚い、辞書よりも重たい本になるのではないか」と想像してしまう。読むほうも大変だと思う。それでもファンが多くいるから書き続けることが出来るのだろう。  『タカリ屋さん』から預かった『優秀な子』からツイッターにログインしてみる。トレンドが英語で埋め尽くされている。これが『たまねぎ』の力なのだろう。僕のリアルアカウント、エロアカウントではない方で久しぶりに呟いてみる。 「新しいスマホに変更しました。ようやく設定完了!」  ファボの通知が来る。本当は「新しい子が。今までの子も大事に使います」と呟きたかったけど。それは『タカリ屋さん』のパクリになってしまうから。
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