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「久しぶりに呟いてましたね」
やっぱり『タカリ屋さん』は見ていた。僕の心の中もお見通しなんだろうけど。
「『脱がし屋』も相変わらず『晒し』ていたね。僕の判断は必要ないんじゃないか?」
「『脱がし屋』のツイートはすべて時間をかけて裏付けをしているものです。昨夜のものは薫君と会う前のものですね。ツイートすると決定したものを実際にツイートするのは一週間後と決めてます。薫君の判断が加わった新しい『脱がし屋』と言いましょうか。それまであと三日ですね。なので、今のところ『物書きさん』は誰も裁いてません。少なくとも今日は別として昨日までの分で三日後から三日間、『脱がし屋』はツイートしません」
そうなんだ。このまま僕が誰も裁かなかったら。それは平和を意味するのだろうか?『脱がし屋』が呟かなくなったらこの国の悪意ある『匿名』は同じことを繰り返すだろう。僕も信念を持たないといけない、と思う。人が殺されるのを見て見ぬふりをするのと同じだ。
「それでさあ。僕が『癒し屋さん』になるとして。僕は具体的に何をすればいいんだろう?」
『タカリ屋さん』が部屋の自販機の赤いコーラのボタンを押して赤いコーラを取り出す。今日のお菓子はポップコーン。『シチュエーション』なのだろう。『タカリ屋さん』は赤いコーラを大きな紙コップ、蓋とストローが付いたものに注ぐ。パソコンにポップコーンの油が付かないようにだろう。『タカリ屋さん』はトングでポップコーンを掴んでは口に運び、赤いコーラをストローで吸う。
「まずはアカウントを作りましょう」
「アカウント?ツイッターの?」
「そうです。『脱がし屋』の中の人である兄に伝えて、そのアカウントをフォローしてもらいます。『脱がし屋』のアカウントが誰もフォローしてないことは知ってますよね。そんな『脱がし屋』にフォローされた唯一のアカウントは嫌でも目立つでしょう。一気にフォロワーも増えるでしょう。そのアカウントの中の人を『物書きさん』にお願いします」
え?『脱がし屋』にフォローされるだって。そんなアカウントの中の人をやれだって。僕にやれるのか?そもそも90万を超えるフォロワーを持つ『脱がし屋』が唯一フォローするアカウントは確実に目立つ。フォローしていない人も注目している『脱がし屋』のインプレッション数五億を超えるアカウントにフォローされるとどうなるのか。ちょっと想像がつかない。
「それで『癒し屋さん』アカウントで、僕が『誹謗中傷』された人を慰めるとか?ちょっと僕には無理だよ」
「いえ、そうではありません」
トングでポップコーン。赤いコーラをストローでチューチュー。げっぷ。そして続けた。
「『癒し屋さん』アカウントは『警告』を意味します。分かりやすく言いますと『余命一週間』です。分かりますか?」
分からない。顔を横に振る僕に『タカリ屋さん』は続ける。
「『脱がし屋』が『晒し』を決定してツイートするまで一週間と決めてあると言いましたよね」
分からない。僕の表情を見て『タカリ屋さん』は続ける。
「『脱がし屋』がターゲットとみなした『もの』を『癒し屋さん』アカウントでフォローしてください。ターゲットはツイッター以外の場合もありますがなんとでもやりようはあります。まあ、ツイッターアカウントで考えてみましょう。『癒し屋さん』にフォローされたら一週間後に『晒される』ことをまず世の人たちに理解してもらいます。そして次のステップです。『癒し屋さん』にフォローされたら逆に一週間の『弁解の猶予タイム』が与えられると理解してもらいます。リプでもいいですし、DMでもいいです。『物書きさん』はその相手と話し合いをしてください。『何故?そんなことをしたのか』、『反省し、態度を改める気持ちはあるのか』など。もちろん『こういう理由がある。だからこんなことをした。正義はこちらにある』の意見の主張もあると思います。それを『物書きさん』が判断、ジャッジするのです。『物書きさん』が判断し、『癒し屋さん』がフォローを解除したら『脱がし屋』はその人を『晒す』ことを止めます」
なるほど。かなり壮大なことだけど、分かりやすい。今まで無慈悲に信念を持って『脱がし屋』の中の人である『タカリ屋さん』のお兄さんへ情報を提供してきた『タカリ屋さん』を止める権利を僕が持つことになり、『タカリ屋さん』がターゲットと決めた人と僕は一週間と言うタイムリミットの中で話し合いをするというわけだ。
「大体大まかなことは分かったよ。僕にその役割がしっかりと務まるか分からないけれど。僕からも条件と言うか、お願いが一つだけある。いや、これは約束だ」
「なんでしょう」
「僕のジャッジには必ず従って欲しい」
「もちろんです。約束します。では、とりあえずやってみましょう。『癒し屋さん』アカウントを作ってみてください。中の人は『物書きさん』に任せますので。当然、アカウントも『物書きさん』に任せます。実は薫君専用の部屋も用意してます。案内します」
そう言って、僕は地下二階の一室へ連れていかれた。『タカリ屋さん』の部屋と同じような部屋。
「この部屋を自由に使ってください。小説を書くのに使ってもいいですよ。アレクサもありますし、テレビは見れない番組もありません。無料の自販機もあります。リクエストがありましたら『母上殿』に好きなドリンクを手配してもらいます。僕の部屋ともボタン一つでテレビ電話と同じように会話できます。ただ、『癒し屋さん』として、僕に意見を求めるのは極力やめてください。僕は必要な情報なら提供します。考えは『物書きさん』にお願いします」
自販機を見ると『タカリ屋さん』の部屋と同じようにコーラばかりが。ただ、『あたたか~い』コーラが。試しに押してみた。本当に熱い赤いコーラが出てきた。
「やはり興味持ちましたね。クルクルしなくて大丈夫ですよ。飲んでみてください」
僕は熱いコーラを飲んでみた。炭酸が抜けた熱いコーラ味の飲み物だ。
「それじゃあ、まずアカウントを作ってみるよ。それから次の『脱がし屋』のターゲットを教えてくれないかなあ」
「いいですよ」
本格的に僕の力が問われる時が来た。
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