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僕と『タカリ屋さん』は試験も兼ねてそれぞれの部屋に分かれてやり取りをしてみた。
「どうですか?僕もこういうのは初めてですが新鮮ですね」
「そうだね。こういうのが進化すれば学校の授業も自宅で受けられるのにね」
「僕は学校にほとんど行ってません。学校は勉強以外にも学ぶことがあるからいいんじゃないですか?」
僕にとって学校は退屈なものだ。だけどそれを口に出来ない。『タカリ屋さん』は何でもお見通しなんだろうけれど。
「とりあえずアカウントを作ってみてください。大丈夫です。ネットも繋がりますので。IPアドレスもバレません。もちろん、『その子』でログインするのはやめてくださいね。すぐに特定されますので。ではその間に僕はいくつか『問題』を用意しておきますので」
『タカリ屋さん』が言う『問題』とは『ジャッジ』の対象のことだろう。大きな画面の電源が切れて『タカリ屋さん』の姿が見えなくなる。向こうから電源を切ったのだろう。とりあえず僕に用意されたノートパソコンを開く。ウィンドウズの方を選ぶ。マックは使ったことがないから。初期設定もされていない。僕専用に設定していいのだろう。
「どうですか?出来ました?」
いきなり先ほどの大きな画面に再び『タカリ屋さん』が映し出される。
「びっくりするじゃないか」
「せっかく薫君がいるのに一人だと寂しくて。すいません」
僕は『タカリ屋さん』に作業の邪魔をされながらパソコンの設定をしていく。
「アカウントどころか、今、パソコンの初期設定をしているところだよ」
「ウィンドウズですか。『その子』も優秀ですよ。しっかり使いこなしてあげてください」
「そうするよう心掛けるよ」
オフィスなど必要なソフトは入っている。
「あ、ちょっとすいません」
そう言って『タカリ屋さん』がもう一度画面から消える。トイレかな?僕は自分がいつも使っているソフトなどをダウンロードしようと思った。その前に。ワードのショートカットを画面に表示させる。『物書きの端くれ』としての基本だ。ワードはいいなあ。
「流石ですね」
いきなり背後から。僕はめちゃくちゃびっくりした。どういうこと?
「階段から来ました。その後ろが壁に見えて回転ドアになってるんです」
僕は驚くことに慣れていたけどそれでも驚いた。忍者屋敷みたいだ。
「この部屋はプライバシーがないようだね」
「いえ、中からロックボタンを押せばいかなるものもこの部屋には入ってこれません。通信もです。敢えて、電波を遮断することも出来ますし、僕の部屋との交信も拒否出来ます」
そうなんだ。でも逆に僕一人じゃあ部屋から出ていけなくなりそうで怖い。タカリ屋さんがノートパソコンを抱きしめながらソファーに座ってから、それをガラスの机に置き、電話する。「『母上殿』。薫君が大至急和菓子をと言ってます」。『タカリ屋さん』は表情をほとんど変えないけれど子供みたいなところがある。そして『癒し屋さん』のアカウントが完成した。
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