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「ここは人目が多すぎる。人目がないところで話そう。最初に言っておくね。僕は君に危害を加えるようなことはしないし、君の個人情報を誰かに暴露することもしない。それは約束する。信じて欲しいなあ」
僕とこの男以外、誰も通っていない道が人目が多い?人目がないところで話をする?いろいろ思うことはあった。でも大人しく従った方がいいと思った。僕の個人情報を、特にツイッターのエロアカウントを知られていることも大きかったけどこれは直観だ。この男は悪い人ではないだろう、と。あとは、僕の小説家としての好奇心。
「分かった。信じるよ」
気の利いた返事は出来なかったけど、今僕の心の中はドキドキしている。すごく。いろんなことを想像してしまう。でも僕の直観に従う。
「よかった」
表情を変えず、相変わらず眠そうな目のまま男は言った。そして続ける。
「すぐ近くにいい場所があるんだ。喉乾いてない?あそこの自販機でジュース奢るよ」
「いや、『貸し』はまだ作りたくないから。自分のは自分で買うよ」
「じゃあ、僕に奢ってください。僕は『借り』を作りたいなあ」
男は初めて少しだけ笑顔を見せながら言った。その笑顔は『タカリ』とかそういうのではなくて。ユーモアの笑顔だ。僕の直観。あそこの自販機はどのジュースも一本百三十円。ペットボトルは扱っていない。強気な自販機だ。
「いいよ。一本だけね」
僕の財布の中にちょうど百円玉が二枚と十円玉が六枚。四枚の硬貨を順番に入れて、僕は缶コーヒーを、男はコーラを。缶を取り出した後、男は釣り銭のところに手を突っ込む。
「二十円の儲けです」
男が十円玉二枚を見せびらかすように僕の目の前につまんで見せた。この男、何者なんだろう?
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