『脱がし屋さん』

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 いつもならとっくに自宅に帰って、親に買ってもらったパソコンに向かっている時間だ。僕は今、『タカリ屋さん』が運転する車の助手席に乗っている。車についての知識なんて僕にはほとんどない。もちろん車がどんなものかとかは知っている。車の名前や部品のことなどの知識はないという意味だ。『タカリ屋さん』が運転している車は『高そうな車』としか言えない。 「薫君」 「何?」 「僕、いくつに見えますか?僕はどんな仕事をしているかとか、イメージで言える範囲で当ててみてください」  『タカリ屋さん』が『物書きの端くれ』である僕に聞く。『物書き』には『人間観察力』が大事だと思っている。でも、それをするには材料が少なすぎる。見た目で想像するしかない。 「うーん。二十歳ぐらいの大学生かなあ(『どんな仕事をしているか』は引っ掛けで実は学生だったとか)?高そうな車を運転してるけど、衣服を見ればそんなもので着飾るようにも見えないし。『脱がし屋』の中の人を知っているならその関係の仕事をしているとか?あれだけの影響力を持っていればその関係でちょっとした額の収入があると思うし。あ」  僕は急いで口元を隠した。 「大丈夫ですよ。薫君。時速六十キロで走っている車に乗っている人間には『読唇術』は通用しません。パーセントの問題です」 「そうなんだ」  僕はスマホを取り出し、ラインの一人グループライン、『ネタ帳』に『車、読唇術は通用しない可能性高い』と入力し送信する。そして『タカリ屋さん』にバレないよう、ツイッターを開く。 「確認ですか?」  『タカリ屋さん』が視線を変えずに車を運転しながら言った。 「確認?僕は思いついたことや新しい使えそうな知識をメモ代わりにスマホのラインに書くようにしてるんだ」 「いいですよ。『脱がし屋』のツイートを見てください。僕はずっと君といた。そして今も車を運転している。どうです?」  『タカリ屋さん』は本当に人の心が読めるみたいだけど僕には分かる。『シチュエーション』と『可能性』。誰だって、僕と同じ行動をすると思う。許可も出たのでうしろめたい気持ちもなく、堂々とした気持ちでツイッターを確認する。 「本名 田中修。27歳。住所 埼玉県〇〇市〇〇〇〇。家族構成 恋人と同棲中。勤務先 〇〇株式会社。学歴 〇〇小学校、〇〇中学校、〇〇高校。ツイッターアカウント @〇〇。インスタ 〇〇。フェイスブック 〇〇〇〇。飲食店評価サイト食べろうぐにて、事実と異なるお店の評判を著しく貶める書き込み」 「本名 石井智之。32歳。住所 神奈川県〇〇市〇〇〇。家族構成 独身。勤務先 〇〇コンビニエンスストア〇〇町店アルバイトスタッフ。学歴〇〇小学校、〇〇中学校、〇〇高校、〇〇大学。マッチングアプリ〇〇にて十五人の女性へ睡眠薬を飲料水に含ませ、それを飲ませてから暴行。撮影。撮影した動画をもとに恐喝行為」
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