『ダウンタウン』に勝ちたくて

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 入学式。雄一は一人、水泳用のキャップとゴーグルを装着して式に出た。目から火が出るほど恥ずかしかった。何の罰ゲームだと頭の中で考えていた。それでも「これ」をやる必要があった。 (ひそひそ)  挨拶代わりの寒い掴み。そしてすぐに雄一は伸基と出会った。 「お前、オモロイことしてたなあ。俺も何かやればよかったなあ」  野球部で坊主頭の怖い顔をした男。新名伸基。この学校で坊主頭は全員野球部だ。 「ん、誰?」 「俺は南中から来た新名伸基」 「頻尿?」 「そうそう、夜何回もトイレに起きてな、ってなんでやねん!」   ノリツッコミ。 「お前は西山ってんだろ」 「そうだよ」 「…。くそ!ボケが思いつかん!」 「雄一でいいよ。残尿くん」 「それはやめろ!殺すぞ!」 「えー。おいしいやん」 「雄一か。お前はオモロイ奴なんか?」 「お前は?」 「誰に口きいてる?」  雄一と伸基との初めての会話。 「三組に本木って奴がおるから。そいつに会いに行ってみろ」  伸基がそう言った。 「本木?」 「そう。言うとくけどそいつはおもんないぞ」 「おもんないんか?そんな奴に何で会わないかんの?」 「俺は三人組でやりたいんや。本木が乗らないなら俺はやらんぞ」  次の休み時間に三組の本木に会いに行く。三組の生徒に本木って誰?と訊ねて一人の男に出会う。田舎者丸出しのニコニコした笑顔の男。これが本木? 「やあやあ、本木君。はじめまして」 「あ、入学式でボケてた人やね。えーと」 「雄一でいいよ」 「西山くんやね!西山雄一くん!ちょっとした有名人やで」 「新名くんから聞いてね」 「あいつが?」 「そう。あいつと本木君はどういう関係なの?」 「中学で一緒にコンビでやってた」 「へー。コンビ名は?」 「本木新名って名前でやってた」 「ネタはどっちが作ってたの?」 「ネタもクソもないよ。あいつに無理やりコンビ組まされて、あいつ一人が全部作ってたよ。俺は横で立ってるだけやった。俺、あんまりそういうの得意でないもん。人前でもあがるし」 「よし。採用」 「え?採用って何?」 「君と僕とあいつの三人でトリオを組む」  雄一は思っていた。 「とりあえず誰かと組んでみよう。ダメなら次を探せばいい」と。 「えーーー。俺、もう陸上部に入ってるし」 「ん?カールくんに勝ちたいの?」 「カールくんって!」 「うわあ、それがツッコミ?」 「だから無理やって。俺、そんなんできへんもん」 「まあまあ、尿漏れくんから聞いたで。君、自給自足の生活してるらしいやん。主食鼻くそやって?」 「どんな自給自足やねん!」 「今のツッコミ?君はお笑い好きやねえ」 「ツッコミでもなんでもないわ!」 「まあいいよ。次は三人で会おうか」  そう言って雄一は背を向ける。  とりあえずトリオだが相方が出来た。人生初めての相方。ネタはいくらでもある。この二人を鍛えて、とりあえずこの学校をとる。雄一はものすごい人見知りだ。勇気を振り絞って入学式でやった雄一の精一杯の「ラブレター」が二人の男に届いた。新名、本木と話をしている間もかなり緊張はしていた。それでも「ボケる」ことが出来た。
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