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「……えっ?!」
小説の世界にのめり込んでいた天音は
突然声を掛けられ、驚いたように顔を上げた。
「……伊藤さん!?」
天音に声を掛けたのか凛太郎だと分かると、その驚きは更に増した。
「どうして……ここ学食——」
「司書が学生食堂使っちゃいけませんか?」
「と、とんでもないです!」
天音は、ここならば図書館のスタッフに見つかることなく
堂々と電子書籍を楽しめると思っていたにも関わらず
一番見られたくない相手に見つかってしまったことに激しく動揺していた。
「そのっ、伊藤さんとここでお会いすると思わなくて……
びっくりしちゃったというか……」
「びっくりしたのはこっちの方ですよ。
あなた、今日うちで紙の本借りてたじゃないですか。それと同じやつ」
「!!」
「その絵……俺も読んだことある作品なんで、すぐ分かりましたよ」
凛太郎は、天音がちょうど開いていた挿絵のページを指差した。
「どうして電子で買った本を、わざわざ借りに来たりしたんです?」
「う……」
思いがけず尋問された天音は、凛太郎とカウンター以外で話せている喜びに浸るより先に
必死で言い訳しようと頭をフル回転させた。
が、聡明そうな彼を説得できるような言い訳は都合よく浮かんでは来なかった。
天音は羞恥心で消えてしまいたい思いをぐっと堪えながら、正直に話した。
「……伊藤さんと話したくて、本を借りていたんです……」
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