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「——その時のスタッフ名に、俺の名前が書いてあったわけですね」
凛太郎は味噌汁をすすりながらそう言った。
「はい……。
それから『伊藤凛太郎』という名前がある展示をいつも楽しみに待つようになって……。
ある時たまたまカウンターで対応してくださった伊藤さんが
他のスタッフさんから『凛太郎』って呼ばれているのを耳にして、
この人が伊藤凛太郎さんなんだ!って知った時はとても感動して……」
天音がもじもじ俯きながら言うと、凛太郎はご飯に伸ばしていた箸を止めて彼女の方を向いた。
「なら……声を掛けてくれたら良かったじゃないですか」
「え?」
「本の趣味合いますね、とか」
「!!……そ、そんな風に話しかける勇気があったら
三年もストーカー紛いなことしていません!
……それに、伊藤さんはそういった無駄話は嫌いな人に見えたので……」
「あなた、俺と貸し出しの業務以外で話したことあります?
俺が無駄話を嫌いそうだというのは、あなたの偏見です」
「……ごめんなさい」
天音が呟くように謝ると、凛太郎は食べ終わったトレーを持ち上げながらこう言った。
「——せっかく無料で読めるんだから、次は持っていない本を借りにきてください。
で……面白い本を見つけたら、普通に声掛けて教えてください」
「……ほんとにすみませんでした……、えっ?」
天音がはっとして顔を上げた時には
凛太郎は既に席を立ち、颯爽と学食の出口へ向かっていた。
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