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それからというもの、カウンターで思い切って凛太郎に声を掛けるようになった天音は
お勧めの本や好きな作家の新作情報などを共有するようになった。
凛太郎は相変わらず無愛想なままで、本の話以外をすることはなかったが
それでも天音にとっては大きな前進だった。
本の趣味が似ていたから——
もちろん、それが凛太郎に好意を抱くきっかけではあったが
凛太郎の無愛想な表情も、感情のこもっていないような無機質で低い声も、天音にとっては魅力的に映っていた。
同じようにただ無愛想なだけの男性ならば、
これまでの人生で何人も見かけてきたはずだった。
だが、凛太郎の一挙手一投足にだけこんなにも惹きつけられるのは、
やはり自分が彼に好意を抱いているためそう感じるのだろうか?
天音は自分が凛太郎にこれほど執心する自身の感情が理解できない一方で、
「それが恋だ」と言われれば、そんな疑問は簡単に片付けることが出来た。
まさか恋慕の情を向けている凛太郎と
それを超越する感情でかつて繋がりを持っていたなどということは、
この時の天音には知る由もなかった——
凛太郎と簡単な会話を交わせるようになって数週間後。
「これ、普段はあまり読まない恋愛のジャンルなんですけど
謎解きの要素だったりどんでん返しのラストだったり、
ミステリにも通ずるところがあって中々面白かったですよ!」
天音はいつものように、図書館で借りた本を返却に訪れていた。
「ああ——この著者なら、元々ミステリ作家だったみたいですよ」
「えっ、そうなんですか?!道理で……」
「ただミステリ作家としては鳴かず飛ばずで
他のジャンルに挑戦するようになったと聞いたことがあります」
「そうなんですね。ミステリ好きの伊藤さんにも、ぜひ読んでみて欲しいです!」
「そうですね、俺も読んでみます」
そう言って凛太郎が返却の本を受け取ろうとした時——
「……っ!?」
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