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そして、9回目のその日はいともあっさりと訪れた。
…僕の、誕生日だった。
予約していたレストランで二時間待っても、彼は来なかった。
繋がらない携帯に何かあったのかって本気で心配になって、レストランの人に謝り倒して彼のマンションへ行った。
灯りが点いていて、倒れたりしてるんじゃないかってますます心配になった僕は、合鍵で彼の部屋に入った。
「あっ、あぁ…っ、いいっ、そこっ…っ、唯人さんっ、もっと…っ、ああ…んっ!」
入った瞬間に聞こえてきた声に、なんだか世界が全て止まってしまった。
後悔も、悲しみも、怒りもなにもない。
あるのは、無、それだけだった。
相手は僕のバイト先の後輩だってすぐにわかった。
男の子に手を出してるの久しぶりだな、なんて冷静に思ってる自分に笑いさえ溢れた。
バイト先に彼が迎えに来てくれたときに知り合った二人。
「え、あの人がカナメさんの彼氏なんですか!?」
その大きな瞳をさらに大きくした後輩。
自分も同性が好きなんです、ってふとしたことから話すようになって、互いに彼氏や好きな人のことを相談しあったりもしていた。
浮気をされ続けていることは、黙っていたけど。
「すっごくカッコいいじゃないですか!いいなぁ、カナメさんも美人だし、すっごくお似合いで!憧れちゃいます!」
いつも屈託ない笑顔で笑うこの後輩を可愛いと思っていたし、数少ない恋愛相談ができる人物でもあったから、大事な友人だとすら思っていた。
よりにもよって、その後輩じゃなくてもよかったじゃないか。
よりにもよって、今日じゃなくてもよかったじゃないか。
よりにもよって、目の前で見せなくても…。僕が来ることをきっと予想できなかったわけはないだろ?
色んな感情が急に押し寄せて、僕は思い切り、現場であるリビングの扉を開けた。
「…っ!?か、カナメ…さんっ!?」
後ろに唯人のを受け入れたまま、その後輩は、驚いた表情を向ける。
「…。」
無言の僕に、唯人も黙ったままで、彼だけが唯人に組み敷かれたままあわあわとしていた。
「…もう、いい。」
それは心から出た本音だった。
「あっ、カ、カナメさん…っ!!これは…っ!!」
何か言いかけたままの後輩の声だけが響く、唯人の部屋をそのまま振り返らず後にした。
もう、涙すらも出なかった。
21歳になったばかりの夜の街は、僕を置いてきぼりのままでいつもと同じように輝いていた。
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