きみは、運命の人だから。

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そうして付き合い始めた唯人は変わらずに凄く優しくて、確かに僕だけを見てくれていた。 幸せだった。 いつも一緒にいて、笑い合った。 あぁ、唯人の運命の人になれるのかもしれないなんて本気で思ったりした。 …なのに、まさに青天の霹靂みたいな、最初の浮気だった。 最初の浮気が判明した以前も以降も、唯人の態度はずっと変わらなかった。 優しくて、一緒にいるときは変わらず僕を大切にしてくれた。 なのに、その後も浮気だけは繰り返す。タチが悪いし、わけがわからなかった。 僕に不満はないという。 好きな気持ちに変わりはないという。 じゃあなんでそんなことするの?って聞いても、「さぁ…?」ってまともな答えは返ってこなかった。 でも、もういいんだ。 1人暮らしするマンションへ帰り、ゴミ袋と引っ越ししてきたときに余っていた段ボールを取り出した。 部屋の中にある、唯人のものは段ボールへ、唯人からもらったものはゴミ袋へ、次々と入れていった。 大学に入り、互いに1人暮らしを始めた 僕らは、常に互いのマンションを行き来していた。 いつもどちらかの部屋で半同棲状態だったから、唯人のものはたくさんあった。 置かれたままの唯人の服からは、唯人の匂いがした。 お揃いの部屋着の片方は唯人に返すために段ボールへ。 もう片方はゴミ袋へ入れた。 引き出しを開けると、幼い頃から大切にしていた唯人に貰ったものの数々。 宝ものだった。 お菓子の袋、お菓子についているオマケ、ガチャガチャの景品。ボロボロの消しゴムの切れ端や、『たおか ゆいと』と名前が貼ってある短くなった鉛筆。 僕が学校を休んだときに持ってきてくれた手紙つきのプリント類。 セミの脱け殻なんてものもあった。 付き合ってから貰った、アクセサリー類、衣類、鞄に財布やキーケース。 まだキレイなままのそれらも全部ゴミ袋へ詰め込む。 いつの間にか流れていた涙は、嗚咽に変わっていた。 唯人が好きだった。 きっと今も大好きだ。 こんなことされても、あんなところを見ても、まだ唯人のことが好きな自分が苦しい。 だから、もういいんだ。 僕がいなくても、唯人はきっと幸せになれる。 僕じゃ、駄目なんだ。 もう会わない。 二度と会わない。 ゴミ袋2つ分と、段ボール2つ分。 泣きながら唯人の携帯に最後のメールを送った。 さっき唯人の部屋を出てから、僕の携帯の着信履歴が全部唯人になっていたことには、その時気づいた。 もう、いい。 もう、唯人を赦せるだけのものが僕には何も残っていないんだ。 玄関先に段ボールだけを置いて、家を出た。 明日はちょうどゴミの日だから、そのままゴミ捨て場に元・宝物たちが入ったゴミ袋を置き、ネカフェに向かった。 唯人がうちに来たのかどうかはわからない。 携帯の電源は落としたまま、その日の朝一番に新しいものに変えた。 しばらく友達の家とネカフェを転々としてから、引っ越しをした。 そうして唯人の世界から、僕を消した。 恋心の幽霊が何度も僕を苦しめてきたけど、僕が唯人に会うことは、それからもう二度となかった。
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