きみは、運命の人だから。

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その後もどうしてもあの時みたいなカナメが見たくて、浮気を繰り返した。 怒るカナメは可愛くて、謝る俺に絆されて、抱かれる姿は俺の征服欲を満たしてくれた。 けど、最初の時みたいな取り乱した姿を、あれ以来カナメが見せてくれることはなかった。 さらにそのうち、カナメは俺が浮気をしても耐えるようになり、無理な平常心を見せるようになった。 だから、よりカナメにダメージを与えられる方法を俺も考えるようになった。 散々考えて、女の子と浮気した時に、久しぶりに動揺しているカナメが可愛かった。 常日頃、カナメが自分が男であることに、男同士であることに後ろめたさや申し訳なさを感じていることに気付いていたから。 俺がいつか女の子に取られるかもしれない、と密かに悩んでいることも知っていた。 泣いて泣いて、もう別れたいなんて言い出したカナメをぐずぐずのどろどろに溶かせて、最後には俺を受け入れながら別れたくないって言わせた時には堪らなく興奮した。 カナメが俺を好きな気持ちをずっとずっと縛り付けてやりたい。 もっともっと、俺だけにしたい。 だから、女の子との浮気を繰り返したのに、カナメはそのうちそれにも耐えるようになっていった。 カナメのバイト先の後輩が俺に近づいてきたのはそんな時だった。 カナメと仲がいいことは知っていた。 「カナメさん、美人ですよね。」 なんて言いながら俺の肩に寄り添うみたいに頭を寄せる後輩の下心なんてみえみえでちょろいものだった。 顔も可愛い。 相手としては申し分はない。 でももう少し、カナメの心を傷つける要素が必要だと思い、記念日を大切にするカナメを裏切ることにした。 これだけ傷つければ、今度こそ、最初のときみたいに俺を全身で好きだって取り乱してくれるだろう。 想像しただけで、身体の奥が熱くなってくる。 その後はまたカナメが泣いて泣いて好きだって繰り返すくらいどろどろに抱いて。 誕生日プレゼントに、指輪を渡そう。 これでカナメはずっとずっと俺のカナメだ。 そんなことを胸を昂らせながら思っていた。 そうして、その日。 後輩を抱く俺を見たカナメは、泣きも怒りもしなかった。 …むしろ小さく笑っていた。 感情が読めない顔で、「もう、いい。」とだけ溢すように言った。 …ちょっとやりすぎたな、と思った。 カナメが出ていった後、興醒めした俺はなぜか泣き出した後輩を追い出し、電話をかけたが、繋がることはなかった。 まぁ、怒ると頑固だし何度かかけ続ければ出るだろう。 指輪を渡せば、また元通りだろう。 そんな風に軽く考えていた。 けれど、その後も電話は繋がることはない。 苛立ちすら感じて、仕方なくカナメのマンションへ向かおうとした俺の携帯にやっと一通のメールが届いた。 まぁ、さすがに怒らせたかな…なんて軽い気持ちでメールを開く。 『もう会わない。今までありがとう。 唯人の荷物は玄関に置いておきます。 唯人の部屋にある僕の荷物は捨ててください。さようなら。』 …やっぱやりすぎたか。 それでも、俺はまだカナメが本気だなんて思いもしていなかった。 せっかく着いたカナメのマンションにカナメがいなかったときも、メールの通りに俺の荷物が入った段ボールが置かれているのに気付いたときも、手のこんだことしやがるくらいにしか思っていなくて。 電源が落ちていて繋がらない電話にようやく少し焦り始め、突然番号が使われていないという無機質なアナウンスを聞いたときに初めて、これはやばいと感じた。 けれど、どこにいっても誰に聞いてもカナメに会うことは出来なかった。 カナメの部屋で待ち伏せしたこともあったが、それでも会えなくて。 しつこく訪れ続けたある日、電気利用の申し込みの札が吊ってあるのとドアポストに目張りがされているのを見て、彼が引っ越したことを知った。 ようやく俺は、カナメが本当に俺の目の前からいなくなったということを受け入れざるを得なくなったのだった。
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