蒼響ライオット

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──── 「それでは、予餞会ライブ、ラストのグループとなりました!」 放送部の滑らかな司会の声に、緊張で汗ばんだ手の平を握りしめる。 予餞会当日の今日。僕たちのグループは兄のこともあり、トリを務めることになった。 「大丈夫、大丈夫。いつも通りやればいけるって!」 光吉に肩を叩かれて、軽く息を吐き出す。 握りしめたギターは、兄が愛用していたストラトキャスター。 「実はこの楽曲は、現在入院中の砂川部長が作られたんだとか」 司会女性の声に、騒ついていた会場が一気に静まり返る。 「そうです。ミドルチューンから後半エッジの効いたアップテンポに変わるので、低血圧の砂川部長を起こすには丁度いい楽曲かなぁ〜と、今回選ばせていただきました」 仁志先輩の軽妙な受け答えに、会場から笑いがこぼれる。 兄の詳しい病状を知っているのは僕たちだけ。 だからこそ、送り出される卒業生も在校生も、楽しい気持ちでこの時間を過ごして欲しい。 そんな仁志先輩の気遣いが手に取るように分かって、泣きそうな気持ちを必死に抑える。 グループの入れ替わりに伴い、暗転した舞台袖で待機していた僕の背中を、トンと誰かが押した。 「そろそろ出番だ。大丈夫、絶対届けようぜ」 黒髪の2年生。ベースを担当してる、加治先輩だった。 「はい!」 中央に向かって足を踏み出す。 指先が僅かに震える。大丈夫。 必ず、届けてみせる。
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