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「これさ、部長の卒業祝いのサプライズで、三月の予餞会に俺らのグループが演奏する予定だった曲。でも、部長がいないならやる意味ないっていうか……そもそもこの曲、部長が弟くんのために書いたやつみたいだし」
「僕のため……に?」
握りしめたタブ譜に目を落とす。
僕の苦手なアルペジオから始まる曲だった。
「そ。だから、勝手に演奏するわけにもいかねーじゃん。ま、弟くんは気にしなくていいよ。有名どころのコピー弾けば、卒業生には喜んで貰えるし」
「……別に、許可なんていらないと思います。弾けば……いいじゃないですか」
なんで……
「そりゃだめ。だって部長怒るとめっちゃ怖えーの。実はこの曲弾く許可、まだ貰ってないのよ。勝手に弾いたのバレたら殴られるわ。加治もそう思うだろ?」
「あー、確かに。部長なら怒るだろうね」
なんでこの人達は……まるで兄が戻って来るみたいに、話せるんだ。
まるで、兄がまたギターを弾くみたいに、話せるんだ。
「みなさんはっ、」
兄のいない日常は、いつも死にそうなほど退屈で。
だけど僕の居場所はここじゃないから、早く忘れなきゃいけないって分かってた。
「なんで音楽を……やってるんですか」
母に内緒でこっそりと弾いた、あの曲のアーティスト名も知らない。
憧れのギタリストがいるわけじゃない。
カッコ良くなりたい訳でもない。
ただ────
「また野暮なこと聴くね〜」
「んなの決まってるだろ」
「そうそう」
兄も、僕も、この人達も。
「好きだからに決まってんじゃん」
持ってる答えは、同じだったのだ。
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