蒼響ライオット

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握りしめたタブ譜に、ぱたぱたと零れ落ちた涙は、悲しいとか、寂しいとか、沢山の感情を内包していたけど……一番は、きっと。 「ごめ……っ、なさい」 「おいおい、どうしたどうした?」 「僕っ……心のどこかで諦めてて……もう、無理なんじゃないかって。もし目覚めたとしても、もう兄と一緒にギターも弾けないだろうって……」 どんなに練習したって、もう僕のギターを褒めてくれる兄は戻ってこない。 そんな鬱屈した心で弾いた弦は歪んで。 音は潰れていく。 楽しかった筈の時間が、苦痛に変わるのが怖かった。 だから、兄の愛したギターや音楽を恨むことで、自分の気持ちを押し込めでもしないと、兄のいない時間を耐えることが出来なかった。 「なーんだ」 仁志先輩が気の抜けた声で呟く。 「え?」 「弟くん、やっぱギター弾けんじゃん。いつから弾き始めた?」 「えっと……まだ、半年くらいで……」 「どんくらいいける? バレーコードは?」 「い、いけます」 「お、いいねぇ。あとは特訓しよっか。もう時間ねーし」 「え?」 「……その曲、弟くんのでもあるしさ、もし嫌じゃなければ部長に聴かせてやらない? 弟くんがオッケーしてくれたら、部長も喜んでくれると思うんだよなぁ。あ、それとも、ギターはあんまり好きじゃない?」 握りしめたタブ譜が、窓から吹きこむ風でバサバサと揺れた。 僕は何のために、今ここにいるんだろう。 僕は何のために、ギターを弾いていたのだろう。 それはきっと──── 「やらせて下さいっ!」 兄に届けるためだ。
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