58人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
握りしめたタブ譜に、ぱたぱたと零れ落ちた涙は、悲しいとか、寂しいとか、沢山の感情を内包していたけど……一番は、きっと。
「ごめ……っ、なさい」
「おいおい、どうしたどうした?」
「僕っ……心のどこかで諦めてて……もう、無理なんじゃないかって。もし目覚めたとしても、もう兄と一緒にギターも弾けないだろうって……」
どんなに練習したって、もう僕のギターを褒めてくれる兄は戻ってこない。
そんな鬱屈した心で弾いた弦は歪んで。
音は潰れていく。
楽しかった筈の時間が、苦痛に変わるのが怖かった。
だから、兄の愛したギターや音楽を恨むことで、自分の気持ちを押し込めでもしないと、兄のいない時間を耐えることが出来なかった。
「なーんだ」
仁志先輩が気の抜けた声で呟く。
「え?」
「弟くん、やっぱギター弾けんじゃん。いつから弾き始めた?」
「えっと……まだ、半年くらいで……」
「どんくらいいける? バレーコードは?」
「い、いけます」
「お、いいねぇ。あとは特訓しよっか。もう時間ねーし」
「え?」
「……その曲、弟くんのでもあるしさ、もし嫌じゃなければ部長に聴かせてやらない? 弟くんがオッケーしてくれたら、部長も喜んでくれると思うんだよなぁ。あ、それとも、ギターはあんまり好きじゃない?」
握りしめたタブ譜が、窓から吹きこむ風でバサバサと揺れた。
僕は何のために、今ここにいるんだろう。
僕は何のために、ギターを弾いていたのだろう。
それはきっと────
「やらせて下さいっ!」
兄に届けるためだ。
最初のコメントを投稿しよう!