蒼響ライオット

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その日から、僕は音楽室に入り浸り、ひたすら兄が書いた曲の練習に没頭した。 予餞会まで残り2ヶ月。 一向に目覚める兆しの無い兄の病室を訪れては、どんな練習をしたのか報告して帰宅する日々が続いている。 僕の実力で、この曲が弾きこなせるとは思えなかったけど、それでもこの曲を弾くことで、兄に僕らの願いが届いてくれればいいのに──── 「はぁ……にしても、このアルペジオ、難し過ぎだってば」 すっかり見慣れた譜面に目を向ける。 あれから1ヶ月みっちり弾きこんだ。それでも、出だしのリフには苦笑してしまう。 コードを一音ずつ弾いていくアルペジオが初っ端から高速で繰り返され、おまけにプリングとハンマリングまで入る。まさにギター初心者の僕を鍛えるための、兄のスパルタ的愛情だと、思えなくもないけど。 「あれー、弟くん、まだやってる」 背後から聴こえた声に驚いて振り返る。 もうとっくに帰ったと思っていた、仁志先輩が入り口に立っていた。 「ども……」 「そんなに根詰めなくてもさあ、はっきり言って部長より才能あると思うけど?」 「いや、才能じゃないです……単に弾きまくってるだけですよ。それに、」 自分の不出来さについ、言葉が詰まる。 「もしかして、最初のギターリフのとこ、結構苦手だったりする?」 歩いてきた仁志先輩が、タブ譜を覗き込んで意地悪く笑った。
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