雪雲エレジー

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「おーい、そこの1年くーん」 教室に向かって廊下を歩いていると、先ほど別れた光吉とは別の声が背後から聞こえた。 ほとんど人のいない、朝一の廊下。 歩いているのは僕一人。間違いなく、僕を呼んでいるらしい。 「は──……うぶっ」 振り向いた瞬間、顔に重い衝撃。 鼻をバウンドした物体が、足元に転がる。 紙パックの……バナナオレ? 「ちょっ!」 本当に。今日は朝から何なんだ。光吉に捕まったり、バナナオレを投げつけられたり。 「あのさあ、勝手に部長のギター持って来られても困るんだけどなぁ〜」 俺を呼んだのは、廊下の先で気怠そうに立つ、明るい茶色のロン毛男。遠目でも分かるくっきりとした二重の目尻は、だらし無く下がっていた。 「兄はもう軽音学部に戻ってきません。ギターは寄付しますのでお気遣い無く」 「なになに、もしかして部長の弟くんなわけ?」 この人も光吉と同じ部類に見える。 音が鳴れば何でもいい、ただのカッコつけたがりのバンドマン。兄はどうして、こんな人たちと音楽なんてしているんだろうか。 「だったら何ですか」 「お前、ギター弾ける?」 「……弾けません」 「あらら、残念。ならいいや。そのバナナオレやるよ。寄付のお礼」 「は?」 「あとさ、部長の弟くんに、ちょっと渡したいものあんだけど」 「はぁ?」 「放課後、第1音楽室で待ってんねー」 「え、待っ」 一体、何なんだこの人は。
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