雪雲エレジー

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教室に到着すると、机でボケっと頬杖をついていた浪川(なみかわ)が、僕を見るなり首を傾げた。 「蒼くん、顔怖いよ。なんか怒ってんの?」 「別に……なんでも無い」 「あ、そう?」 浪川はこの学校で一番話しやすい、気の置けない友人。いつもこんな風に、何も考えてないかのように、ボケーっとしている。 「浪川って呑気でいいね」 「え、なに? 何か言ったぁ?」 もしかしたら、本当に何も考えていないのかもしれないけど。 「いや……ところで、今日は浪川早いね、朝練は?」 まだポツポツとしか来ていないクラスメイトの間を抜け、浪川の斜め後ろの席に腰をおろす。 「んー、朝練はあるけど、今日は朝練じゃないんだなぁ」 言いながら浪川が僕の方を振り返る。 人の少ない教室は、酷く冷たくて、喋るたびに白い息が吐き出された。 「朝練があるのに、朝練じゃないって変じゃない?」 笑うとまた、白い息が舞う。 窓の外は分厚い鼠色の雲が太陽を隠していた。今日は雪でも降るのだろうか。 雪は嫌いだ。兄から全てを奪った日だから。 「俺さ、部活辞めんだよね〜」 「ふーん……え? 今、なんてっ!」 のんびりとした浪川の声は、すごく心地良くて、その暖かな温度のせいで、意味が上手く飲み込めない。
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