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「桜子ちゃんって笑わないよねー」
小学生の頃、俺と桜子を含めた友だちグループ五人で遊んでいた頃のこと。遊んだ友達の女の子一人がそんなことを言い出した。
対する桜子はけろっとした顔で、
「だって、つまんないから」
歯に衣着せぬ桜子の発言はグループに亀裂が入るには充分な一言だった。
俺には分かる。彼女は「今」の遊びが退屈なだけで「遊んでいる友達」がつまらないわけではないと。
しかし、それから桜子はどのグループにも遊びに誘われることがなくなり、いつのまにかクラスで浮いていることが多くなった。俺は幼馴染だから、彼女に時々声をかけたが、思春期特有のクラスの面々の冷やかしが怖くて、桜子がからかわれているときも助け船を出すことがあまり出来なかった。
五年生に進級してから『ステキ発見』というコーナーが帰りのホームルームで追加された。
「相手の良いところをシートに書いて、一日一票クラスの名前ボックスに入れよう」
担任教師は致命的な勘違いをしていた。
こんなの、真面目に投函したら絶好の冷やかしの的になる。思春期の照れから、クラスのほとんどが人気者だけへの投函にしぼり、人気投票という残酷な結果になってしまった。
当時クラスのリーダーポジションだった太田の名前ボックスだけほぼ全てのシートを丸呑みし、他の生徒のボックスはせいぜい二、三枚ある程度。
この格差社会を表したようなボックスに、もう一人だけシートが大量に投函されている生徒が孤立気味の幼馴染、清水桜子だった。
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