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結果から言うと清水のボックスの中に入っているシートの内容は全て悪口だった。ステキなんて欠片のない悪意の塊。
夕日の射し込む放課後の教室で一人ボックスの中身のシートを一通ずつ読んでいる清水を見つけ、思わず怒声をあげてしまった。
「そんなもの読まずに捨てちまえよ!」
「……わざわざ書くなんて何か真意が込められているのかなって」
やはりこの幼馴染はどこかズレている。悲しみどころか怒りの沸点もないのか。
「単に嫌がらせだろ」
「そう」
清水は自分宛に悪口が書かれたシートを四つ折りにし、筆箱の中へ保存する。
「私ね、小説家になるのが夢なの」
「は?」
「どんなものでも文字が書かれたらそれは作品よ。この子たちも私の作品の糧になるから」
「自分に送られた悪意で良い話が書けるかよッ」
俺は四つ折りにされた紙くずを清水の手から全部もぎ取りポケットに詰め込む。
「……何するの」
少し不機嫌な顔。
「悔しいだろ。糧を盗られて悲しいだろ。泣けよ」
「私がそんな理由で泣くわけないじゃない」
「普通泣くんだよ! クラス総出で悪口書かれたら。お前ズレてんの。そこは前向きにならなくていいとこなんだよ」
「悲しくないもの。それより久瀬が意地悪なのが嫌」
「清水のバーカッ」
やり場のない怒りにキャパオーバー。
俺は清水を教室に置き去りに、ポケットをポンポンにふくらませたまま家までダッシュして帰ってしまった。
あの日のシートは未だに捨てられず、俺の机の奥底に眠っている。
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