<第三話・再会>

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 当時まだ小学生であった彼は、その理屈を上手に説明することができなかったのだろう。特に、母親はそういう類の能力を全く持たない人だったから尚更に。いくら母が“このトンネルを通った方が近道になるんだから”と繰り返しても聞かない。幼子なりの全力で、母の服を引っ張って止めようとする。  それを見て、妹の薫も兄が嫌がるトンネルの方を見て――ぎょっとしたのである。  トンネルといっても、小さな橋の下を通る程度の短いものだ。向こう側は簡単に見通せる。その向こうには雑木林に囲まれた普通の道があり、反対側は畑に面している。何度も通った見慣れた道、そのはずだった。でも。  目を凝らして気づいたのだ。トンネルを抜けた向こう側が、妙に暗いことに。何か、黒い靄のようなものが立ち込めているということに。  問題なのはトンネルを通ることではなく、トンネルを抜けた先にある“何か”だと理解した。恐らく、兄にはもっとはっきりとした何かが見えていたのだろう。だから、薫も兄に加勢して母を止めたのだ。流石に幼いとはいえ兄と妹の二人がかりで抵抗されては、母も強引に進むことができない。結局、やや遠回りの別の道を通ったのだが。  後日、そのトンネルを抜けてすぐのところで、土砂崩れが起きていたことが発覚する。もしあのまま自分達があの道を通っていたら、巻き込まれたかもしれないくらいのタイミングで、だ。あれがただの自然災害であったのか、あるいは何らかの悪霊のようなものの力が働いたのかはわからない。そして、自分達に見えるものが幽霊的なものなのか、それとも別の何かをサイコメトリしているのかもわかっていない。  確かなことは、一つだ。自分と兄には、何か“あってはならないもの”が見えてしまうことがある、と。 「えっと、瑠奈ちゃんさ、とりあえず何か注文しようか。その上で、話聞かせてよ。ね?」  今、薫は瑠奈と共に、近所のファミリーレストランの中にいる。ご飯でも食べながら、ゆっくり話を聞くのがいいだろうという魂胆だった。すると、瑠奈は少し困ったように笑ってくる。 「そうしたいのはヤマヤマなんですけど……その。今からする話、食事しながら話すようなことではないかもしれないというか。食欲なくなりそうな話、ではあるんですけど……いいですか」 「おう、ていうことはアレか。結構グログロ?」 「……すみません」
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