<第三話・再会>

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 思い出したのか、瑠奈の顔色は頗るよろしくない。どうやら、相当ヤバイネタを持ってきてくれたらしかった。写真などがあるかどうかはわからないが、話を聞くだけでも気分の良い内容ではないのかもしれない。  少し考えたが、薫は構わずメニューを広げた。理由は簡単だ。そこまで思いつめている彼女に、これ以上気に病んで欲しくなかったのである。 「いい!大丈夫!ヘーキ!普段からそこそこグロいの見えてるし、ご飯くらい食べられちゃう、問題ナイ!というわけで私は注文するぞ、ここはグラタンが超美味いからね!」  薫の気遣いに気づいたのかどうなのか、一瞬瑠奈は目を丸くして、やがてくすっと笑いを零した。 「夏なのに、グラタンなんですか。変わってますね、先輩」 「私は好きなものに季節感とか全然気にしないのだ!真冬にアイスクリームも食べるし、なんならカキ氷だって食べちゃうからね。夏場にキムチ鍋でもいいぞ、全然!美味しければそれで問題ないの!」 「ふふ」  少しは気持ちを明るく持ち直してくれたのか、彼女もメニューを開いてくれた。このファミリーレストランは、チェーン店とはいえ薫が気に入っている場所の一つなのである。安い、美味いというのも大事だが、何より雰囲気が良いのだ。茶色を基調とした落ち着いた内装に、可愛い青い花が咲く植木鉢が窓際に並べられている。入るとほっと一息つける上、店員もベテランが多く皆親切なのがありがたい。  ちょっとだけお腹がすいた時。ちょっとだけ嫌なことがあってすぐに家に帰りたくない気分になった時。この店に寄って、好物を食べてぱーっと忘れるのが薫流だった。そういえば、今は一人暮らしをしている兄と趣味が合う数少ないものがこの店、であったような気がする。グラタンが好きなのも共通していた。なんだかんだ兄妹ねえ、と母がにこにこ笑っていたのもよく覚えている。子供の頃から、何度も家族で揃ってご飯を食べに来たのがこの店だった。――残念ながら、父は幼い頃にもう亡くなってしまったけれど。  その父がどんな風に死んだのか、というのは未だに母から詳しく聞いたことがない。ただなんとなく、この不思議な能力が父方の血によるものらしいということには気づいていた。母曰く、父にも何か奇妙な力があったのだという。
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