<第二十六話・巻添>

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 ましてや、その苦しみの連鎖を現代に至るまで脈々と続けようなどと。一体どれほどの憎悪を溜め込めば、ここまで凄惨な怨霊が出来上がってしまうのだろうか。 「……だが、かつての村長の愚かさは……今の世代にも受け継がれてしまっていたんだろうなあ。だから、再び破断が引き起こされてしまった」  持ち出した本の中には、現村長であった鬼殿完三郎の日記もあった。殴り書きでかなり汚い字ではあったが、これも必要と磨いておいた速読の技術がここで生きてくれたらしい。ついでに、武藤は記憶力にも自信がある方だ。ざっと見した日記の内容も、ざっとそらで語ることができるくらいには暗記していた。 「壷鬼は一定期間ごとに生贄の名前を指し示し、その生贄をあの工場の機械ですりつぶして壷の中に捧げることで村は安寧を保っていた。何故か壷の中に生贄の肉を入れるとたちどころに消えてしまうものであったらしい……まるで壷鬼に喰われたようにな。生贄は必ず、茅ヶ崎亜希子らと同様に麻痺だけさせて意識を奪うこともせず、生きたまま潰してミキサーにかけるということをしなければならなかったようだ。ゆえに、誰が指名されたかは鬼祀の儀を行う直前まで村長だけが知り、秘匿としていたようだ」 「まあ、そうでしょうね。……自分が指名されたと知ったら、大抵の人は発狂するか逃げ出すかだもの。場合によっては、自ら命を絶ってしまってもおかしくないわ」 「そういうことだ。夏頃に妊娠している者がいると、ほぼ確実にその女は生贄に指名された。幸い一度に生贄にされるのはひとりずつであったから、複数の妊婦がいた場合のみ他の妊婦は生き延びることができたらしいがな。当然、こんなことを繰り返されれば村の少子化は免れられない。じわじわと村は衰退の一途を辿っていたようだ」  戦時中の秘密を守るために、罪を重ね、さらにおぞましい儀式を続けなければ存続できなくなってしまった村。鬼祀村の、壷鬼――秘密を知る者はその存在に怯え、知らぬ者は何も理解できぬまま神様と信じて崇めていたというわけである。多分村の人間でも、全員が壷鬼の秘密を知っていたわけではなかっただろう。下手をしたら、鬼殿と茅ヶ崎の両家の者達しか知らなかった可能性もある。茅ヶ崎の者からすれば余計秘匿にしておきたかったはずだ、自分の家の先祖が、村を脅かす怨霊となってしまったのだから。  
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