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もしかしたら父は、その能力ゆえに何かに巻き込まれて死んだのかもしれない。だからだろうか、自分達が能力の片鱗を見せると母はやや怯えた目をするのである。それに気づいてからは、自分も兄も母の前ではあまりそういうことを話さないようにはしているのだけれど。
「……今日は、本当にありがとうございます、先輩」
店員さんにそれぞれスパゲッティとグラタンを頼むと、瑠奈は深々と頭を下げて来た。
「正直、こういうことって誰に相談すればいいのかもわからなくて。まだ私自身に怖いことが起きてるわけでもないし、お寺さんとかに相談していいのかもわからないし。そしたら、先輩が霊感持ちで、みんなの相談に乗ってくれてたのを思い出して……」
「霊感、っていうほどのものじゃないけどねえ。精々、失くしものを見つけるのがちょっと得意とか、ちょっと嫌なものが憑いているのが見えるとか、それくらいだし」
それは事実だ。自分は兄と違って、本当に“なんとなく悪いものが見えるような気がする”能力しかないのである。兄は、何か悪い運命を背負った人が近づくと、本人を見ずともそれを察知できたりするらしいが。残念ながら、自分にはそこまでの力はない。
ゆえに、期待させすぎたら悪いので、あらかじめハードルを下げておくことにする。
「相談には乗れるけど、役に立つかはわからんよ。それでもいいの?」
薫が告げると、それでもいいです、と彼女は俯いた。
「十分です。正直、抱え込むのにも限界を感じていたんで。……えっと、私。M大学の文学部に今は通っています。近いところに、一人暮らしで。両親とは長期休暇には会いにいきますけど、そう頻繁にではないんです」
「瑠奈ちゃん、しっかりしてるもんねえ。文学部か、本読むの好きだったもんね」
「はい。……その、両親と会うのもその程度の頻度で。祖父母に至っては、お正月くらいしか会うこともなかったんです。特に母方の方は祖母も亡くなっていて、祖父が一人で暮らしている状態で」
「おじいちゃん一人暮らし?そりゃ……」
「いえ、八十を過ぎていてもすごく元気な祖父だったんです。高齢男性って孤立しがちと言いますけど、とても社交的かつ穏やかな人で。近隣の方々とも交流があったし、週一回体を鍛えるためにジム通いしていたくらいなんですよ」
すごく元気な祖父だった。今、瑠奈は明らかに過去形を使った。そしてメールの文面を思い出す。確か瑠奈はこう書いていたはずだ。つまり。
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