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その禁を、男は己が助かりたいがためにあっさり破ったのだ。
壷を見た者――呪いの条件を満たす者が多ければ多いほど、自分に向く呪いの密度が下がると考えたが故に。
「鬼殿完三郎は祭りにかこつけて御神体を一般公開し、村人達皆に見せて回った。この時、たまたま坂口甚太も村を訪れていたってわけだな。……こうして考えると坂口が村に入ることを許されたのも、村長のこうした思惑あってのことだったのかもしれん。壷を見る者は、多ければ多いほどいい。あるいは、村の外から来たマレビトである坂口を生贄の一人にすることも考えていたんだろう」
「勝手すぎる、そんなの……!」
「ああ、本当にな。今まで散々人に犠牲を強いておいて、いざ自分の番が来たとなったらその役目を人に押し付けると来たもんだ。滅茶苦茶だろうさ。そして……あとは言うまでもないだろう。鬼殿完三郎は、壷鬼の怒りを買って……破断を引き起こしてしまった」
ここまで来れば、とりあえずはもう大丈夫だろう。一度サービスエリアに寄るため、ウインカーを出す武藤。さすがにこうも長時間、運転しっぱなし話っぱなしは疲れるというものだ。できればタバコも吸いたいところである。喫煙所があればいいのだけれど。
「なんとなく、わかったかも……その、壷鬼を見て。どうしてお祖父ちゃんが生き残ったのか」
震える声で、瑠奈が告げた。
「お祖父ちゃんは、もう村では破断を防ぐことができないと判断して……外部に持ち出して封印するしかないと思ったんだ。お祖父ちゃんの目の前で、村の人たちが次次に死んでいったから。……そして、そんなお祖父ちゃんが望むまま、壷鬼を外に持ち出せた最大の理由は」
夕闇に染まる、空。それがいくら不吉であっても、口にする以外の術はない。
それは、武藤もおおよそ考えていたことと――同じ。
「壷を見る者を、呪いを受ける者を増やすため。……村の人の数では破断を完成させるにいたらなかったから。壷鬼はお祖父ちゃんを生かして、意図的に壷を外に持ち出させたんですね。……破断の生贄を、作るために」
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