<第三話・再会>

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「……亡くなったの、そのおじいちゃんなんだよね?」  八十代という年齢を考えるならば、突然倒れてポックリ、もおかしなことではないのかもしれない。しかし、ジム通いするくらい元気だった男性が突然ともなると、少し違和感を覚えるのは自然なことだろう。  そして、わざわざ薫に話を持ちかけてきたということはつまり、お風呂で突然心臓麻痺を起こした――なんて死に方ではないはずである。 「祖父は、去年から少しずつ様子がおかしくなっていたみたいなんです。毎年家族に会うのをとても楽しみにしていたのに、この間のお正月は姿を見せませんでした。何も言っていないのに突然怒鳴られた、と母が怒っていたくらいです」 「怒鳴られた……?」 「ええ。しかも、祖父を発見したの……祖父の家を訪れた自治体の職員さんだったんです。その、家が酷いことになってたらしくて。ゴミ屋敷になってしまって、道路にまでゴミが溢れ出して、しかも家にこもったまま出てこなくて。セルフネグレクトを疑われたのと、近隣住民から苦情が出たから職員さんが様子を見に行ったってことだったみたいなんですけど」  ゴミ屋敷、と言われて薫は以前見たニュースを思い出していた。時々特集を込まれているのでなんとなく想像はつく。道にまで白いゴミ袋がごろごろと転がり、通る人が顔を顰めてそれを避けて歩く始末。そのゴミ山の中に座り込み、インタビューを受ける男性。不要なものは何もないから仕方ない、片付けるつもりはあるからそのままにしておいてくれ――そう繰り返す顔に、反省や後悔の色はない。  行政代執行というのも聞いたことがある。あまりに酷い場合は、自治体が介入してゴミを強制撤去することがあるのだそうだ。薫が見たそのニュースでも、しばらくして代執行が入り、道にはみ出した分のゴミは自治体が撤去していた。残念ながら、ひと月過ぎる頃にはほとんど元通りの有様になってしまっていたらしいが。 「元気だったおじいちゃんが、いきなり引きこもってゴミ屋敷って……何か怪我でもして、体を悪くしちゃったの?」 「それが、よくわからないんです……直前まで、元気に旅行に行っていたのに。その旅行から帰ってきてから、どうにもおかしくなってしまって」  思いつめたように、首を振る瑠奈。そして。 「祖父は、職員の方の前で……血を吐いて亡くなったそうです。その時、壷を抱きしめて……こう言ったのだと聞きました。“壷鬼が来る”と」
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