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<第二話・退屈>
大学二年生の長期休暇は、暇なことが多い。
勿論レポートに忙しい生徒、卒論の準備などを今から始める生徒なんてのももしかしたらいるのかもしれないし、サークル活動に従事していればその限りではないのだろが。特にどこのサークル入っているわけでもなければ、そこまで勉強熱心ではない並の大学の生徒に限定すれば――暇をもて余している者は少なくないのではないか?と思うのである。
新倉薫も、まさにそんな一人だった。別の大学に通い、学生寮に入っている兄はぐうたらな妹に関して苦い思いがあるらしく、しょっちゅうメールやら電話やらを寄越してくるほどである。彼の口癖の一つが“人間いつ死ぬのかわからないのだから、もっと有意義に生きたらどうなんだ”だ。そんなこと言われてもどうしろと、という話である。確かに、いろんなやり甲斐を見失って、燃え付き症候群になっているのは事実だけれど。
――はあ。暇だなぁ。
自宅のベッドに寝転がり、ため息をついた。
――もし、サークル入ってたら。こんな退屈な時間、なくて済んだのかな。
本当は、大学に入ったら吹奏楽部なりジャズなり――とにかく得意なトロンボーンが吹けるサークルに参加するつもりであったのである。実際、高校時代に所属していた吹奏楽部での時間は、薫にとって有意義なものに違いなかった。引退するまで、気のいい仲間たちと笑って過ごした三年間。――再び楽器に触れる、というよりサークルや部活に従事しようという気持ちが萎えてしまったのは。ひとえに、引退してから知ってしまったある事実ゆえである。
本当に情けない話ではないか。副部長まで努めておきながら、部内のいじめに最後まで気づかなかったなんて。
いじめられていたのは、パーカッション担当の二年生の女の子だった。他の楽器の担当者達と違い、打楽器担当というのは少々特殊である。何故なら曲によって、どの打楽器がお呼ばれするのか変わってくるからである。一つの楽器だけ叩ければいいというものではない。場合によってはドラム演奏の技術が求められることになるし、ピアノやキーボードも厳密に言えば打楽器の担当だ。簡単に見えて、広くいろんな楽器をリズムよく叩けなければいけない、ある意味一番ハードなのがパーカッションのチームなのだった。
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