<第二話・退屈>

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 ゆえに、彼らは彼らだけでまとまって練習することも少なくない。新しい楽譜が来るたび、誰がどの楽器を演奏するのか相談して決める必要もある。  当時の学校では、みんなで合奏するのが第一音楽室で、第一音楽準備室は実質パーカッション専用の練習部屋になっているようなものだった。つまり、他のパートの生徒たちの目に止まりにくいのである。パーカッションパートの部員たちによるいじめは、そこで主に行われていたのだ。  金管楽器のチームで動くことの多かった薫は、最後までパーカッションチームで起きていた出来事に気がついていなかった。一人、部活を休みがちの子がいる。それには気づいていたが、彼女は学校ごと休むことが大半だったので体調を崩し勝ちなだけだと思っていたのである。まさか、部内でいじめが起きていたなんてどうして思うだろう。  当時の吹奏楽部は、男子ゼロの女子だけしかいない部活動だった。  今時のいじめは、男子より女子の方が狡猾で見えにくいことが多い。昔より、明らかに水面下で動くことが増えた、なんて話も聞いたことがある。物を壊されたり落書きされたりなくされたり、なんてことがなくてもいじめはいじめとして成立するのだ。彼女が主に浴びていたのは無視と悪口、そして職場でいうパワハラに近いものだった。  ようは練習で失敗するたび、いじめの主犯だったパートリーダーにひたすら叱責されていたらしいのである。その内容は単純なミスを咎めるに留まらず、時に彼女の人格や容姿を貶めるものに至っていたのだという。それを知ったのは、同じく引退したパーカッションの三年生から話を聞いてからのことだった。彼女は同じパーカッションパートにいながら、自分が標的にされるのが怖くて見て見ぬふりをしてしまった一人であったという。  いじめを止めることは、難しい。  みんなで加害者に立ち向かうのが理想なのかもしれないが、現実にそんな勇気を持てるものはほとんどいないことだろう。だって、誰か一人でも裏切れば終わりなのだ。いじめられないために一人を生け贄にしてしまっている、という負い目がある者達が、その一人を避けるために仲間を売らない保証がどこにあるというのだろう。結託は、けして容易なことではないのである。 ――あの事件があったから。女子が多い部活は怖いって、そう思うようになっちゃったんだよな……。
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