<第二話・退屈>

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 怖いのはけして、女子に限ったことではない。男子も男子で恐ろしい一面がある場合もあるのは充分にわかっている。けれど、明るく元気に活動しているように見えた大好きな部活の裏で、そんなことが起きていた出来事に――と思ったら。人を信じるのが、恐ろしくてたまらなくなってしまったのである。  いじめの主犯の子達は、自分達は仲良しチームです!という顔で笑顔で合奏に参加しながら――裏では一人をいじめてストレス発散し、あるいは自分が標的にされるのを恐れて怯え続けていたのだ。  当時のパートリーダーに問い詰めたところ、彼女は悪びれもせずにこう言った。 『出来ないことをきちんと教えてあげてただけなのに、それをいじめ呼ばわりされるのマジ意味わかんない。そもそも、みんなと足並み揃えられなくて、足引っ張ってばっかりで迷惑かけてたあの子はなんなの?それでみんなイライラしてたのよ、むしろあたし達は被害者なのに!大体、あれをいじめだって言うなら、引退するまでそれに気付きもしなかった副部長サマはなんなのよ?』  殴ろうと思わず振り上げた拳は、結局降り下ろすこともできずに終わった。彼女の理論を認めるわけにはいかない。それでも最後のところだけは、一理あると言わざるをえなかったのである。  実際、自分は仲間が苦しんでいるのに、その彼女を気遣うどころか事実に気づくことさえできなかったのだ。一体どうして、いじめ主犯を正義面して殴る権利があるだろう。  確かにパートで隔離されてはいた。気づきにくい現状があったのは事実。それでも自分は、部長を助けてみんなをまとめていくべき立場の人間であったはずなのだ。 ――楽器を見ると思い出す。それに、吹奏楽系は大学も女子がすごく多いし……正直、怖いや。  もっと言えば。性格のせいなのかなんかのか、人に頼られたりリーダーを任されることが多いのが薫である。サークルに入ったら、最終的にまたコンサートマスターなどをやらされるような気がしてならないのだ。もう薫には、みんなに胸を張れるようなリーダー役を努められる自信がなかった。また、誰かの心を取りこぼしてしまいそうで恐ろしくてならないのだ。  自分には無理だ。そんな器ではないと、せめてもっと早く気づいていたなら。  こんなことを今更考えても、後の祭りでしかないのだけれど。
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