<第三話・再会>

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<第三話・再会>

 薫が覚えている限り、藤岡瑠奈という少女はいたって大人しい文学系の少女であったはずだ。いつも礼儀正しく、丁寧な言葉遣いで話し、話し合いでは一歩引いてしまうこともあるタイプである。  しかし極めて真面目で誠実、年下相手でもけして態度を変えない上練習熱心。部内でもかなり評判のいい人物だった。薫がみんなのお姉さん役のようなポジションに収まり(部長がかなり堅物のタイプだったので、副部長である薫の方が話しやすいと思ったのだろう)、瑠奈の相談にも何度か乗ったことがある。薫は典型的な“頼られると調子に乗る”タイプだった。結構軽い気持ちで“困ったことがあったらなんでも言ってね!”と触れ回っていたのを彼女も覚えていたのかもしれない。  同時に。薫が“多少程度の霊感持ち”であるということも。 「いきなり会いたいなんて言ってすみません。先輩、忙しくなかったですか?」 「いやいや全然全然。むしろ超暇してたから気にしないでよ」  浮かない表情の彼女と再会したのは、メールが送られてきた三日後のことである。亡くなった祖父のことで、どうしても相談したいことがあるから聞いて欲しい、と言ってきたのだ。その物言いでピンと来た。これは、オカルト絡みの話なのだろう、と。  その時一瞬浮かんだのは、やや偏屈な兄のことである。人間的にはけして嫌いな人物ではない。むしろ、少し不器用なだけで面倒見の良い優しい青年だ。ただ兄の新倉焔(にいくらほむら)は、オカルト研究会的なものに所属しているくせに、妹がそういったものに関わるのを極端に嫌がったのである。 『お前は俺と同じように、多少だが余計なものが見えるだろ。なら、知らないものは知らないままがいい。わからないものはわからないままの方が安全だ。それが一番“手の出しようがない”。……少しでも違和感を感じる案件には絶対に関わるな。胡散臭いオカルトな番組も見るな。いいか』  なんとなく、彼がそういうことを言いたがる理由はわかる。はっきりとは言わなかったが、兄はどうやら薫とは比較にならない能力の持ち主であったらしい。幼い頃、母と兄と自分の三人で道を歩いていた時、突然兄が立ち止まって引き返すように言い出したことがあったのである。この道は行ってはいけない、悪いことが起きるから嫌だ、と。
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