鬼は外(勤)、福は内(勤)

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チラッと横目で主任を盗み見る。 黙っていれば男性的で整った顔だ。 黙っていれば、好感度はかなり高いはず。 黙ってさえいれば、モテまくり確実だろう。 そう、彼はとにかく口が悪い。 そして己にも厳しい分、人にも厳しい。 私の前任者は、彼にきつく叱られた翌日、出社拒否をしてそのままフェイドアウトしたらしいからなあ。 まあ、怒られる原因を作った彼女にも責任はあるんだろうけど。 こっそり鑑賞していると、不意に主任が顔を上げて私を見た。 「おい」 「はいっ」 見てたのがバレたのか?! 「この書類、後で所長に直接渡して捺印してもらっておいてくれ」 と、書類を掲げて見せたので、ホッとする。 「デスクに置いておくと、絶対なくすだろーからな」 「…わかりました」 確かに所長のデスクはおそろしく乱雑だ。 直接渡して、目の前で捺印してもらって返してもらうのが一番確実だろう。 私が書類を受け取ると、彼はジッと私を見すえて言った。 「もしちょっとでも定時を過ぎたら、ちゃんと残業申請するんだぞ。 ハンコくらい、俺が押してやるから」
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