ふたりの夫、ふたつの生活。あったかもしれない、もう一つの人生

13/28
前へ
/28ページ
次へ
 長男を送り出した後、祐子は長女の彩佳を起こすため二階へ上がった。さっきから、彼女の部屋では目覚まし時計のアラームがスヌーズで鳴りっぱなし。彩佳は自転車で五分のところにある中学校へ通っているため、時間ギリギリまでほっておいてもいいのだが、そうすると、決まって――彩佳は階段を駆け下りてきて、 「なんで、起こしてくれなかったの!」 「起こしたわよ。何度も」 「でも、起きてないじゃない。それじゃ、起こしたって言わないよ。バカなの?」 と、怒り出してしまう。  祐子は手を変え品を変え、娘を優しく諭し、何とか布団から出させて、彩佳は一階へ。最近、おしゃれに目覚めたのか、洗面台の鏡の前でドライヤーを手にして、三十分以上は立っている。その頃には夫も起きてきて、同じく洗面室へ。娘に申し訳なさそうに、自分のヘアブラシを取る。彼は彼で最近、薄毛に悩んでいて、育毛剤を丹念に使って整髪していた。  祐子はその間、娘と夫のために朝食と昼のお弁当を準備する。ダイエット中の娘は注文が多く、兄が好む茶色い系のおかずを毛嫌いし、色とりどりの野菜を中心にしたおかずを好んだ。果物と野菜のスムージーは毎朝の日課だ。  一方、一家の大黒柱である夫・和孝はここ数年、メタボ気味。本当は食生活に気を遣ってやりたいところだが、何もいわないでいてくれるので、昨日の夕食と子供たちの残り物で済ます。そして、祐子の朝食はその夫の残り物。お茶漬けにして、急いで口の中に掻き込んだ。  午前六時から家族が五月雨式に登校・出勤して、祐子が家の中で一人になるのが午前八時。NHKの朝ドラを見ながら、一服なんてことは出来る訳もない。  ここからが本番だ。洗濯物を干して、洗濯機ではキレイにならない、息子の泥だらけのユニフォームを洗濯板で洗い、娘のために改めて洗濯機を回す。娘は思春期のせいか、父や兄の洗濯物とは一緒にされたくない、柔軟剤はフローラル系量多め、シャンプーもリンス、ボディウォッシュ、洗顔クリーム、整髪料も銘柄を指定してくる。どれも価格がお高めで、祐子は少しでも安く買おうと特売のチラシを睨めっこし、自転車でスーパーやドラッグストアめぐりをする。もちろん、彩佳は母の苦労を知る由もない。子供たちが成長して、少しは
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加